ベルリン-東と西が出会う場所。ドイツにありながらドイツではない町。歴史の影に彩られた栄光と悲運の世界都市。そんなベルリンの奥深い魅力をリアルタイムでお届けするブログです。Since 1. August 2005


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中村真人 (Masato)
神奈川県横須賀市生まれ。早稲田大学第一文学部を卒業後、2000年よりベルリン在住。ベルリンの映像制作会社勤務を経て、現在はフリーのライター、ジャーナリスト。


ベルリンガイドブック
「素顔のベルリン」増補改訂版
¥1,680
ダイヤモンド社
(Amazon、全国各書店にて発売中)

本書は2009年10月発行「素顔のベルリン」の増補改訂版です。2013年に改めて新規取材を行い、データを更新。レストランやショッピング、コラムなどのページも増量し、より充実したガイドブックに生まれ変わりました。

Amazonにてネット購入ができます。



『街歩きのドイツ語 』
¥1,575
三修社

豊富なビジュアルとドイツ語フレーズを楽しめる1冊。基本のあいさつ表現から、街にまつわるドイツ語豆知識まで、ガイドブックとともに旅に役立つ会話集です。




『素顔のベルリン 過去と未来が交錯する12のエリアガイド 』
¥1,575
ダイヤモンド社
(2009年発売)

地球の歩き方シリーズ初、待望のベルリンガイドブック誕生!比類なき歴史を抱えつつ、明日へ向かって日々進化し続ける首都ベルリン。「ドイツで最もドイツらしくない」といわれるこの町の知られざる魅力を、現地在住著者が12のエリアにわけて徹底紹介。


現在のトップ画像は、ベルリン在住のイラストレーター、高田美穂子さんによるオリジナル作品です(詳しくはこちらより)

ベルリン更新情報
2013/02/20 up

ベルリン個人ガイドのご案内

執筆、ガイド、コーディネートなどのご依頼、お問い合わせはこちらまで(これまでの出版・寄稿実績)→
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ザクセンハウゼン強制収容所跡を歩く(1) -駅からの道のり-

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S1の車窓から (2007-02-10)

日本から旅行で来る方々と話していると、ザクセンハウゼン強制収容所跡に興味のある方が結構多い。つい先日も、ある女子大生の方と話していたら、今日の午後、これからザクセンハウゼンに行くという。若い今風の学生さんが一人で収容所跡に行くというのに私は少し驚き、話を聞いてみたら、学生時代に『シンドラーのリスト』をはじめ、いくつかの映画を見て興味を持つようになったのだという。私は行き方の簡単な地図と見どころを紙に書いて彼女に渡した。

ザクセンハウゼンのことは、日本語での情報が少ないこともあり、一度まとまった形で紹介したいと思っていた。私はこれまで何度か訪れているが、ちょうど先週末、プライベートで久々に行ったばかりだ。そして、この数日間、日本で「アンネの日記」が相次いで破られるという恥ずべき事件が度々報道されている。この機会にブログに書いてみようと思い立った。

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今回ご紹介する写真は、2007年2月に初めて訪れたときのものと、先週末に撮ったものとが中心だ。フリードリヒシュトラーセ駅からS1(20分毎に出ている)に乗って北に約45分。終点のオラニエンブルク駅に到着する。ここはもうブランデンブルク州。ベルリン交通局のチケットはCゾーンになる。

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立派な外観の駅舎を持つオラニエンブルク駅。もともとベトツォウ(Bötzow)と呼ばれていたこの街が「オラニエンブルク」に変わったのは、17世紀にさかのぼる。大選帝侯フリードリヒ・ヴィルヘルムの最初の妃、ルイーゼ・ヘンリエッテ・フォン・オラニエンはオランダ王家の出身だった。彼女はこの街をとても気に入り、オランダ風の城を建てることを命じ、城の名をオラニエンブルクと名付けたのだった(ここもいつか訪ねてみたい)。

駅前のバス停から、804か821という収容所跡(Gedenkstätte)行きのバスが走っている。だが、どちらも1時間に1本程度しか出ておらず、週末は804番が2時間に1本出ているだけ!ここでは徒歩での行き方をご紹介したい。駅前のStralsunder Str.をドラッグストアのdmの方向にまっすぐ行くと、Bernauer Str.という大通りにぶつかり、ここを右に曲がる。

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列車のガード下をくぐり、しばらく歩くと、Straße der Einheitという大きめの通りと交差する。ここを左に曲がれば、やがてこの記念碑が見えてくるだろう。強制収容所が解放された後、1945年4月のいわゆる「死の行進」を追悼する碑だ。

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その記念碑を曲がると、Straße der Nationという通りに入る。強制収容所跡の入り口は、この突き当たりだ。駅からここまで徒歩で約20分。タクシーに乗っても10ユーロ弱ではないかと思う。ここで帰りのバスの時間を調べておくのも手だろう。

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入口から奥に見える建物が、インフォメーション。まずはここに立ち寄って、各国語で出ているパンフレットと地図を手に入れよう。日本語版はないものの、受付で聞くと、A4版の日本語の翻訳を出してくれる(私が行ったときは1ユーロだった)。これがあるとないとでは大分違うので、ぜひ聞いてみていただきたい。書籍のコーナーも充実している。オーディオガイドは現在のところ英独だけだと思う。

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ナチス時代の他のいくつもの強制収容所同様、ザクセンハウゼンも正三角形の幾何学的な構造を持っている。底辺の真ん中に位置する入り口までは、ここからさらに歩かなければならない。

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強制収容所の歴史に関する野外展示。

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やがて見えてくる収容所の本当の入り口。オラニエンブルクの駅からここまで、かれこれ30分は歩いたことになる。

(つづく)
by berlinHbf | 2014-02-28 15:17 | ベルリン発掘(東) | Comments(3)

映画『コーヒーをめぐる冒険』のご案内

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「ベルリンで、じっくり味わう」をキャッチコピーにした、ベルリンを舞台にした新作映画が間もなく東京で公開されます。

ヤン・オーレ・ゲルスター監督の『コーヒーをめぐる冒険』(原題は"oh boy")。同監督の長編デビュー作品にも関わらず、本国ドイツを始め、すでに数々の賞を受賞したことでも話題になりました。

主人公のニコ(トム・シリング)は2年前に父親に内緒で大学を辞め、どっちつかずの日々を送っている20代後半の青年。そんな中、アパートの隣人、俳優業を営む友人、かつての同級生ユリカとの再会、そしてナチス時代を生き抜いた老人等々、様々な人々と出会う波乱の1日を通して、ニコが何かを見つけて行くという作品です。

ミッテやプレンツラウアー・ベルクを舞台にしたモノクロの映像とジャズの軽快な音楽が非常に心地よく溶け合っており、コメディーでありながらも、メランコリックな雰囲気やドイツの負の歴史をさりげなく盛り込むなど、奥行きのある作品に仕上がっています。また、「コーヒー」が映画の重要なモチーフに使われており、ラストシーンでの後味はとても印象深いものでした。

昨年夏、私は近所の映画館でこの作品を初めて観て、ベルリンを舞台にした映画に一つお気に入りが加わったことを喜びました。その後、ご縁があって、この映画のプログラムにエッセイを寄稿させていただくことになり、そのときは飛び上がりたくなるほど嬉しかったです。が、いざ書いて提出すると、「もっと中村さんの主観を出して書いてくださって結構です」とのお返事。この映画の世界(例えば、登場人物のぶっきらぼうな話し方だったり、アパートの隣人との関係性だったり、歴史が突然向こうからやってくる感覚だったり…)はベルリンに短期間でも住んだことのある人には多分すっと入っていけるのですが、そうでない日本の大部分のお客さんにはちょっとわかりにくい要素があるのも確か。ならば、自分が13年間住んできたベルリンの生活実感を絡めながら、観る人がこの映画の背景や街の魅力を知るのに少しでもお役立てできるようなエッセイを書けないかと考え、一から書き直しました。結果的に、こちらの方を掲載していただけたのは自分としてもよかったと思っています。その他、「ベルリンをよく知るためのキーワード集」と「ニコと歩くベルリンマップ」も執筆させていただきました。映画と合せて、ご一読いただけると幸いです。

こうして書いているうちに、久々の映画のサントラを聴きたくなって、棚から取り出してCDをかけています。ゲルスター監督のインタビューによると、国際映画祭への出品が決まる1ヶ月前になっても、まだ確信を持てる音楽が決まっていなかったそう。ちょうどその時、4人のジャズを勉強している学生に出会い、「彼らにマイルス・ディヴィスが『死刑台のエレベーター』のオリジナル・スコアを3日で書いたというエピソードを語ってプレッシャーを与え」、一気に曲を完成させたのだとか!しかしこれが、見事に功を奏したと思います。ちなみに、私が持っているサントラ盤では、最後にトム・シリングが自作の(?)歌を披露していて、これもなかなか味わいがあります。

3月1日より渋谷シアター・イメージフォーラムにて公開。詳細はwww.cetera.co.jp/coffeeをご参照ください。
by berlinHbf | 2014-02-24 22:22 | ベルリンを「観る」 | Comments(8)

ピアニスト メナヘム・プレスラー

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ハンス・アイスラー音大のマスタークラスで指導したメナヘム・プレスラー氏

メナヘム・プレスラーというピアニストをご存じでしょうか? クラシック音楽に興味がある人でも、誰もが知る名前ではないかもしれません。それは、プレスラー氏がソリストとしてよりも、「ボザール・トリオ」という米国のピアノ三重奏団で長年活躍してきたからなのですが、驚くべきことに90歳の今もなお、精力的に演奏活動を続けています。1月中旬、この超ベテランピアニストがベルリン・フィルと“初共演“すると聞き、期待を胸に出掛けてきました。

万雷の拍手の中、小柄なプレスラー氏が舞台に現れました。曲目はモーツァルトのピアノ協奏曲第17番。セミヨン・ビシュコフ指揮の柔らかな伴奏に乗って、ピアノのソロが始まります。極めて軽く透明なタッチに耳を奪われました。何より驚いたのは、彼独自の世界観を感じさせながらも、オーケストラと完全に調和していたこと。木管楽器が活躍するこの作品で、愛らしいメロディーの掛け合いが幾度も交わされ、協奏曲というよりは室内楽を聴いているかのような親密な演奏でした。

アンコールで演奏されたのが、ショパンの遺作となった夜想曲第20番。忍び寄る死と生が同居したような、不思議な軽みと温かみに包まれた演奏で、聴衆は最後、総立ちでピアニストを讃えました。

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マスタークラスの様子

その翌日、プレスラー氏がベルリンのハンス・アイスラー音楽大学の若手ピアノ三重奏団に対してマスタークラスを行うというので、見学に行きました。前夜、天上のような音楽を奏でていた人とは思えないほど厳しく、また細かい指導に驚きます。「タッチが乱暴過ぎる。手を無重力のまま下ろすような感じで」「楽譜をよく見て! ピアニッシモと書いてあるでしょう」。英語だけでなく、時折流暢なドイツ語も交じります。彼は1923年にマグデブルクでユダヤ人として生まれ、1938年の「水晶の夜」事件の後、ナチスによる迫害を逃れて米国に亡命した経歴を持ちます。ドイツに帰化したのは2012年と言いますから、祖国への果てしない道のりに思いが至ります。

レッスンの後、プレスラー氏と少し言葉を交わすことができました。別れ際、にっこり笑みを浮かべて一言、「春に日本に行くよ。サヤカと共演するんだ」。この4月、ヴァイオリニストの庄司紗矢香さんと日本でデュオ・リサイタルを行うそうです。

何かを達観したような美しいピアノの音色とその背景にある激動の歩み。そして、今も持ち続けている好奇心と向上心。プレスラー氏の歩みはこの先も続きます。
ドイツニュースダイジェスト 2月21日)
by berlinHbf | 2014-02-22 21:50 | ベルリン音楽日記 | Comments(2)

グライスドライエック駅の階段

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U-Bahnhof Gleisdreieck (2014-02-10)

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地下鉄U2とU1が交差するグライスドライエック駅。U2の駅の方は最近改修されましたが、それでも約100年前の創業当時の雰囲気を今に残しています。この階段の上からの光が印象的で、写真を何枚か撮ってみました。

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階段を上がるとU1のホームへ。多くの人は乗り継ぎのために利用するだけですが、私の好きなベルリンの駅のひとつです。

関連記事:
天使の降りた場所(12) - 都心の中の無人地帯 - (2006-10-16)
100年の重みに耐えた橋 - 天使の降りた場所(13) - (2006-10-18)
by berlinHbf | 2014-02-16 23:47 | ベルリン中央駅 | Comments(4)

発掘の散歩術(43) -ベルリンでスタートアップ!-

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ベータハウス地上階にあるカフェの様子

ベルリン関連のニュースで、少し前くらいから「スタートアップ」という言葉を頻繁に耳にするようになった。IT系ベンチャー起業の拠点として、欧州の中で今ベルリンが注目されているのだそうだ。

と、言葉を並べてみても、ピンとくる方は少ないかもしれない。1990年代、ベルリンの壁崩壊後の混沌とした雰囲気や極めて安価な家賃でアトリエを借りられるとの理由から、世界中のアーティストがこぞってベルリンにやって来た時期があった。それと同じようなことが今、IT分野でも起こっていると考えれば分かりやすいだろうか。当時に比べると家賃はかなり上がったものの、パリやロンドンに比べると生活費は依然として安い。ベルリンでは英語も比較的通じるし、プログラミングやデザインの技能があれば、ITベンチャー事業の立ち上げには元手があまり掛からない。ゆえに、EU諸国や米国の若者たちが夢を求めてベルリンに集まって来るというわけである。

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もともと工場だった建物をリノベーションして造られたベータハウス

そんな中、今注目されているのがコワーキングスペースだ。先日、ベルリンでもこの分野で最大級の「ベータハウス」を訪れた。場所は、近年再開発が進んだ地下鉄U8モーリッツ広場駅近く。一度は通り過ぎてしまったほど目立たない外観だが、中へ入ると空気は一変する。

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地上階はカフェになっており、ゆったりとしたスペースの中でPCに向かって作業している人の姿が見られる。建物の1階から5階には、アトリエ、大小様々のオフィス、ワークショップが行われるイベントスペースなどが備わっている。照明のデザインが面白い。壁や机には木材が多用され、居心地は良さそうだ。もちろん全館Wi-Fi完備。1カ月の利用料は159ユーロで、別料金で郵便の受け取りサービスもある。プログラマーやデザイナー、建築家、ジャーナリストといった職種の人がちょっとしたオフィスを構えることを考えれば、魅力的な条件かもしれない。掲示板には、フリーランサーの名刺やスタートアップの人材募集といったチラシがそこかしこに貼られていた。コワーキングスペースは、仕事の情報交換やスカウティングの場としても機能しているというわけだ。

かつてベルリンの壁が建っていたベルナウアー通りの一角では、欧州におけるITの大規模なハブとなる建物「Factory」の建設が進んでいる。その工房は、米グーグル社が100万ユーロ(約1億4000万円)の投資をしたことでも話題になった。もっとも、プラス面の話題だけではない。家賃が急激に高騰している現在のベルリン。IT関係者の流入による物価上昇に伴い、活発な不動産投機が追い討ちを掛けて、今後家賃がさらに上がる可能性もある。そうなると、ITのハブは東欧方面に移っていくかもしれない。

ベルリンのITシーンの面白さに惹かれ、2012年にこの街に移住してきたフリーランス・イラストレーターの高田ゲンキさんは、「シリコンバレーに代表される北米のストイックな文化とベルリン特有の緩い空気が、今後どのように混ざり合っていくのか興味深い」と語る。2014年もベルリンのITシーンは流動的であり続けるだろう。多種多様な人と文化の融合に、今後も注目していきたい。
ドイツニュースダイジェスト 2月7日)


Information
ベータハウス 
Betahaus


2009年にオープンしたクロイツベルク地区のコワーキングスペース。興味のある方には、毎週火曜17:00と木曜の11:30に行われる無料の見学ツアー(英語)がお勧め。情報交換のための朝食会も定期的に開催。ベルリンのスタートアップの分布を示したマップ(http://berlinstartupmap.com)を参照すれば、この街における現在の活況を実感できる。

オープン: 月~金8:00~20:00
住所: Prinzessinnenstr. 19-20, 10969 Berlin
URL: http://betahaus.de


ザンクト・オーバーホルツ 
St. Oberholz


地下鉄U8ローゼンターラー広場駅の目の前に位置し、ベルリンではWi-Fi無料カフェの先駆けとして知られる。天井の高い1階と2階では常にPCで作業する人で賑わっており、まさにコワーキングな雰囲気。2011年からは、その上階にあるオフィス、アパートメントを貸し出すサービスも行っている。

営業: 月~木8:00~24:00、金土8:00~翌3:00、日9:00~24:00
住所: Rosenthaler Str. 72a, 10119 Berlin
電話番号: 030-2408 5586
URL: www.sanktoberholz.de
by berlinHbf | 2014-02-09 23:53 | ベルリンのいま | Comments(2)

マーラーの《復活》に挑む!

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Gethsemanekirche (2013-01-30)

コンツェルトハウスでの自分たちの演奏会がいよいよ今晩(5日)に迫った。アマチュア音楽家として、幸運なことに今までいろいろな曲と直に触れることができ、貴重な経験をさせてもらってきたけれど、今回のグスタフ・マーラーの交響曲第2番《復活》は、その中でも際立ったスケールと内容の深さを持つ作品の一つであることに間違いない。かれこれ3ヶ月この大曲と付き合ってきたので、「今日でもう終わりか」という名残惜しい気持ちがある一方、不安を抱えたまま臨まなければならない箇所もあって、なんだかいつになくソワソワしているのが正直なところ。この数ヶ月を振り返って、《復活》とのあれこれを思いつくままに綴ってみたいと思う。

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そもそもアマチュアのオーケストラがなぜこんな大曲に挑むことになったかというと、2年半前からメンバーに入れてもらっているオーケストラ(Junges Orchester der FU)の創立20周年の記念公演の演目に選ばれたから。ベートーヴェンの第9やベルリオーズの幻想交響曲なども演目の候補に上がったらしいのだけれど、指揮者の強い意向などもあってマーラーの《復活》に決まったらしい。この作品は、大編成のオーケストラに加え、合唱、ソプラノとメゾソプラノのソリスト、さらに金管楽器の別働隊(バンダ)も要するとあって、プロのオーケストラでもそうそうは取り上げられない。ましてや、アマチュアではなおさらのこと。今回の合唱団は3つの団体からなる混合(そのうち一つはドレスデンから参加)で、ソリストにはベルリン国立歌劇場の若手歌手が駆けつけてくださった。演奏者が総勢何人になるのかはわからないが、よくぞこれだけの人々が集まったものだと思う。

3ヶ月練習してきた中で、とりわけ印象に残っている瞬間がいくつかある。一つは、1月初頭の週末、オーケストラの合宿に参加し、集中的にリハーサルをしたときのことだ。場所はメクレンブルク州の田舎街ブルク・シュターガルトのユースホステル。正直、私はこのとき気分があまり優れなかった。自分の中に潜んでいるネガティブな感情が吹き出していたというか、なんだかやたらと悲観的なことばかり考えていたのだ。そんな中、日曜の午後、最後の通し練習が行われた。《復活》を最初から最後まで通して演奏するのは、このときが初めてだった(演奏時間は80分にも及ぶ)。第5楽章の途中まで、比較的冷静な気持ちで吹いていたのだが、本来合唱が加わって感興が頂点に達するあの箇所で、私は電流に打たれたように感動してしまったのだ。そのときはオーケストラだけの演奏だったにも関わらず。
Sterben werd ich, um zu leben!
私は生きるために死のう!
Auferstehn, ja auferstehn wirst du,
よみがえる、そうだ、おまえはよみがえるだろう、
mein Herz, in einem Nu!
わが心よ、ただちに!
この日の午後、雲の動きが早く、空は刻々とその色合いを変えていた。そして、これは単に私の勝手な思い違いである可能性が高いのだが、記憶の中では、この箇所に差し掛かったあたりで、窓から光が差し込んで、指揮者にまさに後光が射したように見えたのだ。練習が終わると、不思議なことに、私の中のネガティブな感情はさっぱり消えていた。宿を出た時、肌に当たる冷気が清々しく、帰りの車の中から眺めるメクレンブルク州の田舎の風景は、何もかもが美しく見えた。あのときの幸福な気持ちは、その後も1週間ぐらい続いたのだ。

そして、もう1つはつい数日前、最初の本番の会場であるゲッセマネ教会でのプローベのこと。それまでずっとオーケストラだけで練習をしてきて、この日初めて合唱とソリストを交えてリハーサルをしたのだった。「よみがえる、そうだ、おまえはよみがえるだろう」の合奏の導入が自分のすぐ後ろからピアニシモで聴こえてきたときは、人間の声の持つ力というものにじんときた。ソプラノ独唱が「おお、信じよ、おまえは空しく生まれたのではない!」と歌いだし、やがてアルト独唱と力強い掛け合いになるところでは、「ああ、ひょっとしたら自分は、この時間を味わうためにドイツに来たのではないだろうか」などと思ってしまったほどだった。


そもそも、マーラーが作曲した《復活》が史上初めて音として立ち現れたのは、ベルリンにおいてだった。1895年12月13日、マーラーは私財を投じてベルリン・フィルや合唱団、ソリストを雇い、全曲の初演にこぎ着けたのだそうだ。当時マーラーのアシスタントだったブルーノ・ワルターがこの場に居合わせ、感動的な回想録を残している。
実際この演奏会の圧倒的印象は、私の回想の中で、最もすばらしいもののひとつなのである。私は、終楽章の偉大なるラッパで世の終わりを告げた後に、復活の神秘的な鳥の歌を聴いた時の息もつけぬような緊張感、それに続く合唱「よみがらん汝は」も導入される部分における深い感激を今でもはっきり耳にすることができる。もちろんそこには、反対者があり、誤解があり、軽蔑があり、冷笑があった。しかしその作品の壮大なこと、独創的なこと、かれの個性の強力なことの印象の方が余りにも深く大きかったので、その日から、マーラーは、作曲家として、最高の地位をもって迎えられるようになったのであった。
(ブルーノ・ワルター『マーラー 人と芸術』(音楽之友社より)
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今回ピッコロと3番フルートのパートを受け持つ私が特に緊張しそうなのが、ワルターのこの回想録にある「復活の神秘的な鳥の歌」の箇所だ。マーラーが「最後の審判」を描いたとされる管弦楽の咆哮が頂点に達した後、突如静寂が訪れ、舞台裏のホルンがこだまのようなエコーを奏でる。そして、フルートとピッコロが鳥の音を奏で始める。同じ鳥でも、ベートーヴェンの《田園》やマーラーの《巨人》に出てくる明朗なカッコウなどと違って、夜の暗闇の中から夜鶯の音が密やかに聞こえてくる感じだ。舞台裏のトランペットとも音が交錯するこの箇所、練習で合わせる回数が少なかったこともあって(言い訳になるが)、不安なまま本番に臨むことになってしまった。本物の鳥のように無心で奏でられたらなあ、と思う。

もう一つ、いつも興味深く拝見している音楽ジャーナリスト、林田直樹さんのLinden日記(2013年11月2日)から引用させていただく。その少し前に横浜で行われたインバル指揮東京都交響楽団のマーラーの交響曲第6番の演奏会について、林田さんが書かれた文章だ。
第1楽章や第3楽章アンダンテにも出てくるカウベル(牛の首につける鈴)の音響的効果は、個人的に大好きなところ。今回の演奏を聴きながら改めて思ったのは、マーラーの交響曲の中に、避けがたく動物の雰囲気が入ってくるということの魅力である。

マーラーが人生を語ろうとするときに、そこに動物や鳥や虫たちや、山岳地帯の草原や青空や陽光が必ず混入してくるような、そういう世界観のあり方じたいが、素晴らしいと思うのである。「自然がなければ人は生きられない」ということを、マーラーの交響曲ほど身を持って感じさせてくれるものはない。

都会にいながらにして、自然の空気をたっぷりと吸い、草の中に寝転んで、のどかな牛たちの雰囲気を感じながら、一時的に去って行った人生の闘争から離れ、つかの間の安堵の時間を過ごす――あのアンダンテが連れて行ってくれる世界は、本当にかけがえがない。
《復活》にカウベルは登場しないけれど、私もこの曲のあらゆる楽章で、自然の情景や田舎のあぜ道がふと脳裏に浮かぶ瞬間がある。あのときのメクレンブルク州の田園風景も。

最近《復活》の中に登場する楽器で気になるのは、ルーテと呼ばれる硬いブラシ状の桴(ばち)の一種だ。マーラーがどういう意図でこの楽器を使ったのかはわからないけれど、私には、第3楽章でこのルーテが後ろでゴソゴソやったり跳ねたりしているのが虫の音に聞こえて仕方ない。

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この雑文の最後に、小澤征爾さんと村上春樹さんの対談本『小澤征爾さんと、音楽について話をする』(新潮社)の中で、小澤さんがマーラーの音楽について率直に語っている言葉を抜き出して、今夜本番に臨む仲間と自分自身への励まし(?)としたい。
小澤 結局ね、マーラーってすごく複雑に書いてあるように見えるし、またたしかに実際にオーケストラにとってはずいぶん複雑に書いてあるんだけど、でもマーラーの音楽の本質っていうのはね—こういうものの言い方をすると誤解されそうで怖いんだけど—気持ちさえ入っていけば、相当に単純なものなんです。単純っていうか、フォークソングみたいな音楽性、みんなが口ずさめるような音楽性、そういうところをうんと優れた技術と音色をもって、気持ちを込めてやれば、ちゃんとうまくいくんじゃないかと、最近はそう考えるようになりました。

村上 うーん、でもそれって、口で言うと簡単だけど、実際にはすごく難しいことじゃないんですか?

小澤 うん。もちろんそりゃ難しいんだけど……あのね、僕が言いたいのは、マーラーの音楽って一見して難しく見えるんだけど、また実際に難しいんだけど、中をしっかり読み込んでいくと、いったん気持ちが入りさえすれば、そんなにこんがらがった、わけのわからない音楽じゃないんだということです。ただそれがいくつも重なってきていて、いろんな要素が同時に出てきたりするもんだから、結果的に複雑に聞こえちゃうんです。
(『小澤征爾さんと、音楽について話をする』(新潮社)より)

小澤さんが言うところの「うんと優れた技術と音色」は、アマチュアの僕らは残念ながら持ち合わせていないけれど、少なくとも精一杯の気持ちを込めて、この高い峰のような作品に挑みたいと思う。
by berlinHbf | 2014-02-05 13:09 | ベルリン音楽日記 | Comments(0)

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