ベルリン-東と西が出会う場所。ドイツにありながらドイツではない町。歴史の影に彩られた栄光と悲運の世界都市。そんなベルリンの奥深い魅力をリアルタイムでお届けするブログです。Since 1. August 2005


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中村真人 (Masato)
神奈川県横須賀市生まれ。早稲田大学第一文学部を卒業後、2000年よりベルリン在住。ベルリンの映像制作会社勤務を経て、現在はフリーのライター、ジャーナリスト。


ベルリンガイドブック
「素顔のベルリン」増補改訂版
¥1,680
ダイヤモンド社
(Amazon、全国各書店にて発売中)

本書は2009年10月発行「素顔のベルリン」の増補改訂版です。2013年に改めて新規取材を行い、データを更新。レストランやショッピング、コラムなどのページも増量し、より充実したガイドブックに生まれ変わりました。

Amazonにてネット購入ができます。



『街歩きのドイツ語 』
¥1,575
三修社

豊富なビジュアルとドイツ語フレーズを楽しめる1冊。基本のあいさつ表現から、街にまつわるドイツ語豆知識まで、ガイドブックとともに旅に役立つ会話集です。




『素顔のベルリン 過去と未来が交錯する12のエリアガイド 』
¥1,575
ダイヤモンド社
(2009年発売)

地球の歩き方シリーズ初、待望のベルリンガイドブック誕生!比類なき歴史を抱えつつ、明日へ向かって日々進化し続ける首都ベルリン。「ドイツで最もドイツらしくない」といわれるこの町の知られざる魅力を、現地在住著者が12のエリアにわけて徹底紹介。


現在のトップ画像は、ベルリン在住のイラストレーター、高田美穂子さんによるオリジナル作品です(詳しくはこちらより)

ベルリン更新情報
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執筆、ガイド、コーディネートなどのご依頼、お問い合わせはこちらまで(これまでの出版・寄稿実績)→
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カテゴリ:ベルリンを「読む」( 40 )

旧カール・マルクス書店が文学サロンに

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文化財に指定されている旧カール・マルクス書店 (2015-05)

社会主義時代の巨大なアパートが建ち並ぶカール・マルクス大通り(Karl-Marx-Straße)に、かつてその通りと同じ名の本屋がありました。東独時代、東ベルリン最大規模の売り場面積を誇り、その充実した品ぞろえから、東側だけでなく、西ベルリンの人々も本を求めてやって来たといいます。秘密警察シュタージを題材とした映画『善き人のためのソナタ』(2006年)の印象的なラストシーンに登場する書店と言えば、ご記憶の方もいらっしゃるかもしれません。

しかし、2008年に経営難から惜しまれつつ閉店。その後、建物はオフィスとして使われていましたが、今年3月、文学サロンとして生まれ変わったという嬉しいニュースが入ってきました。

関連記事:

仕掛人は文化マネージャーのヴァネッサ・レミー氏。アウフバウやズーアカンプといった著名な出版社での勤務経験を持つ同氏が、旧書店の上階に事務所を構える映像制作会社に話を持ち掛け、プロジェクトが実現するに至ったといいます。「もう一度、この街の読書愛好家を惹き付ける文化的な場所にしたかった」と同氏。

オープニングの月に行われた4回の朗読会はいずれも満員だったそうです。通常は入場料に8ユーロかかりますが、5月最初の日曜日の午前、入場無料のイベントが行われるというので足を運んでみました。

地下鉄U5のシュトラウスベルガー広場駅から徒歩5分。久々にやって来た旧書店の正面には、Karl-Marx-Buchhandlungの大きな文字が、変わらずそこにありました。建物の外観と内観は共に文化財に指定されているため、内部の木製の書棚を含め、書店時代そのままの状態が残されたのでした。

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書店時代の面影を残した内部の様子

この日は、国境なき記者団の年刊写真集の発売に際して、ウクライナ人カメラマンとドイツ人ジャーナリストが登壇し、ウクライナ東部での現地の様子を率直な言葉で語り、訪れた人は熱心に耳を傾けていました。

興味深かったのは、この日配布された国境なき記者団による最新の「報道の自由度」を示す世界地図。「良い状況」にあるドイツやポーランド、北欧などの欧州諸国に比べて、アジアにおいて「十分な状況」にあるのは台湾のみ。日本は「顕著な問題のある」カテゴリーに置かれていました。すでに知っていた情報とはいえ、かつて報道の自由が著しく制限されていた国の元書店で、母国の現状を複雑な思いで眺めました。

久しぶりにカール・マルクス書店に足を運び、やはりオフィスよりは書物が似合う空間だと感じました。そして、自由で創造的な意見が交わされる場こそ、書物が満たす空間にふさわしいのだと思います。
www.karlmarx-buchhandlung.com
ドイツニュースダイジェスト 5月15日)

by berlinHbf | 2015-05-17 14:12 | ベルリンを「読む」 | Comments(0)

NHK『テレビでドイツ語』新シリーズ開講のご案内

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NHK教育テレビ(Eテレ)の語学番組『テレビでドイツ語』の新シリーズが始まりました。この4月から9月までの番組は、久々にベルリンが舞台です!
その先進性がドイツのみならず世界の注目を集める首都ベルリンが舞台。2010年度ナビゲーターの原沙知絵が再登板し、市民との日常会話を通して一歩先のドイツ語を学ぶ。かつてドイツ語を学んだナビゲーターたちもライバルとして登場。ドイツ語対決に挑む。(「NHKゴガク」のHPより)
これまで何度かテキストに連載記事を書かせていただきましたが、今回は「Botschaften aus Berlin ベルリンからのメッセージ」という月1回放映される番組中のシリーズのコーディネートを、もう1人の方と担当させていただきました。これはベルリン在住の著名人にインタビューするコーナーで、第1回目では1988年から98年までドイツ連邦議会議長を務めたリタ・ジュスムートさんに「移民との共生」をテーマに話を伺いました(4月13日放送、21日再放送)。テキストにはインタビューの全文が掲載されているので、ドイツ語を勉強している方にはとてもためになります。そうでない方にとっても、日独に共通する社会問題を扱ったこのインタビューシリーズや、ベルリンの街や郊外の風景がたくさん出てくる本編は、とても興味深い内容ではないかと思います(生活や文化情報も満載!)。お時間がありましたら、『テレビでドイツ語』の新講座をぜひご覧ください。

放送: 月曜日 午後11:25~11:50
再放送:翌週 火曜日 午前5:30~5:55

以下はNHK出版のHPより
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ベルリナーに学ぶ、日常会話に
必須の24の話題とフレーズ

「趣味の話」や「家族の話」など、日常生活で話題にしやすい24の話題について、会話を弾ませるためのナチュラルなフレーズを学びます。ベルリン在住の著名人へのインタビューや、連載を通じ、常に新しいものが生まれる首都ベルリンの魅力もたっぷりと伝えます。

by berlinHbf | 2015-04-10 17:01 | ベルリンを「読む」 | Comments(1)

岩波書店『世界』2015年2月号 - アウシュヴィッツ解放70周年 -

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岩波書店の月刊誌『世界』2月号に、「インゲ・ドイチュクローンが心に刻んできたもの—アウシュヴィッツ解放70周年—」というタイトルのルポを寄稿させていただきました。間もなくやって来る1月27日のアウシュヴィッツ解放70周年に合わせて書いたものです。

『世界』という非常に歴史ある雑誌に書かせていただくことになり、また1万字を超える字数のルポを書くのは初めてということもあって、昨年の秋はこの原稿をどうまとめるかがずっと頭の中にありました。いろいろ考えた結果、戦時下のベルリンで生き延びた1922年生まれのユダヤ人女性、インゲ・ドイチュクローンさんのインタビューを軸に、戦後ドイツ社会がどのようにして「アウシュヴィッツ」に向き合うようになったのか、さまざまな立場から描こうと試みました。

とても重く、また難しいテーマですが、書くにあたっては、ベルリンの生活者としての立場、そしてそこでの人間関係から生まれるものを大切にしようと心がけました。実際、友人や知人と話している中で、「この人に会って話を聞いてみるといい」というありがたい提案や紹介をいただくことが何度もあり、取材対象はどんどん広がっていきました。字数の関係から、今回原稿の形になったのはその中の限られた部分ではありますが、今後掘り下げていきたいテーマもいくつか見つかりました。まだまだ稚拙な部分もあるかと思いますが、力を込めて書きましたので、『世界』2月号をご一読いただけると大変嬉しく存じます。

後記:
嬉しいことに、朝日新聞の「論壇委員が選ぶ今月の3点」(1月29日朝刊)にて、小熊英二氏が拙ルポ「インゲ・ドイチュクローンが心に刻んできたもの」を選んでくださいました。

by berlinHbf | 2015-01-13 19:52 | ベルリンを「読む」 | Comments(11)

『ベルリンガイドブック』が増刷されました

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昨年7月に『素顔のベルリン』(ダイヤモンド社)の増補改訂版として刊行された『ベルリンガイドブック』が、おかげさまでこの度増刷されることになりました。早いもので初版から5年が経ちましたが、いまも多くの方に読んでいただいていることを大変ありがたく思っています。今回の増刷に際して、すべてのデータを再チェックし、情報をアップデートしました。また、変わりゆくベルリンの風景に合わせて、写真も数枚差し替えています。もしこの最新版をご希望という方は、巻末に「改訂第2版第2刷発行」と記載されている本を書店にてお選びいただけたらと存じます。
by berlinHbf | 2014-12-23 22:12 | ベルリンを「読む」 | Comments(2)

「考える人」(新潮社) 2014年秋号 - オーケストラをつくろう -

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小学生の頃からクラシック音楽が大好きだった。別に「クラシック音楽」だからというので近づいていったのではない。小学2年生のとき、たまたま転校先の学校の掃除の時間にモーツァルトの「アイネ・クライネ・ナハトムジーク」が流れていて、毎日聴いているうちに好きになったのである。そういうわけで、その音楽を生み出す母体である「オーケストラ」というものに対しても自然と興味を抱くようになった。

生のオーケストラを聴いて、初めて心の底から揺り動かされた。そんな衝撃的ともいえる原体験が私にはある。それはベルリン・フィルでもウィーン・フィルでもなく(さすがに当時生で聴く機会などなかった)、かといって地元のプロのオケでもなく、日本の10代の少年少女が演奏するオーケストラだった。

1988年の1月末だったと思う。小学6年生だった当時、私はリコーダーの音色が好きで、リコーダーアンサンブルのクラブに入っていた。山本典子先生の指導のもと、横須賀市立森崎小学校の音楽クラブはTBSこども音楽コンクールの東日本大会に出場した。会場は東京の郵便貯金会館だったと思う。東京での大舞台ということで緊張もあったのか、私たちのクラブは力を十分に出し切れず、やや不甲斐ない気持ちのまま残りの学校の演奏を聴いていた。今でもよく覚えているが、最後の2つの小学校はオーケストラ演奏だった。確か2つとも千葉県の公立の学校で、そしてなぜか二校ともドヴォルザークの新世界交響曲の第4楽章を演奏した。そして、これがすごかったのだ。

音楽自体のかっこよさはもちろんのこと、その音が放射するエネルギーと輝かしさに圧倒された。何より目の前で音を奏でているフルオーケストラのメンバーが、自分と年の変わらない小学生であるという事実・・・。あれこそが、「自分もいつかあの中に入って音楽をしてみたい!」と真剣に思った最初の瞬間ではなかったかと思う(もちろん、金賞に輝いたのはこの2つのどちらかのオーケストラだった)。幸い私は、アマチュア音楽家にしてはこれまでかなり恵まれたオーケストラ環境で音を奏でることができた方だと思う。いろいろな意味で、心が震えるような体験をしたことも一度や二度ではないし、仲間とのアンサンブルの難しさや苦労も含めて、オーケストラという世界で学んできたことは数限りない。

前置きが長くなってしまった。最近発売になった新潮社の季刊誌「考える人」秋号の特集は「オーケストラをつくろう」。前から愛読していた雑誌がこんなテーマの特集を組むとは、やはりちょっと興奮させられた。オーケストラ特集といっても、「ベルリン・フィルの演奏がいかに素晴らしいか」とか、「あの指揮者のあの曲の何年盤の録音がどうのこうの」といった音楽専門誌の視点ではなく、オーケストラそのものが持つ可能性と夢について存分に語っているのが面白い。紹介されるのも、プロの第一線で活躍する音楽家もいれば、50歳以上でないと入れない「老人オケ」、小学校の PTAを母体にした親子アンサンブルもある。特集の核になっているのが、ベネズエラから始まり世界に旋風を巻き起こしたエル・システマだ。いわば、「エリートだけではないオーケストラ」がテーマともいえる。

曲がりなりにもにもオーケストラに長年関わってきたからゆえに、(時にいくばくかの自省の念とともに・笑)共感を持って感じられる言葉に数多く出会った。例えば・・・
〈私もクラシックのアマチュアオーケストラに入っているので身にしみて分かるが、この種の団体を運営するのは本当に大変だ。練習場の確保、経理、連絡事務、楽譜管理。演奏会をやればホールとの交渉、受付や案内係の手配といった雑用が山のようにある。ところが音を出す以外の仕事はみんなやりたがらない。一方で選曲や練習方法の話になるとてんでに勝手を言う。そのうちに人間関係がもつれてくる。そのあたりが小説にする時の妙でもあったけれど、現実にもゴタゴタ続きの団体は枚挙に暇がない〉(荒木源「実録『オケ老人!』」より)
〈なぜそこまでして、オケに打ち込めるんだろう?
「それはもう・・・・・・アンサンブルで音が合ったときの喜びといったら!コンサートが近づいてきて、それまでなかった打楽器なんかが参加して初めて合わせたときの、あの震えるような感動・・・・・・鳥肌が立つような瞬間ったらない」(竹内さん)〉(『親子で奏でるアンサンブル』より)
日本での大学時代の4年間は、本当にどっぷりオーケストラ活動に浸かった。あんな時間はもう二度と持てないだろう。当時の仲間の近況をSNSなどで読み知ると、今も会社員や主婦をしながら複数のアマオケを掛け持ちしている人もいれば、きっぱりやめてしまった人もいる。その両方の気持ちが何となくわかる。このデジタル時代においても、オーケストラでは数十人、ときには100人近いメンバーが集まらないことには基本的に練習が始まらない。娯楽にあふれ、スケジュールが過密な現代社会において、これはなかなか大変なことだ。もちろんお金だって結構かかる。私の場合は、ベルリンのアマオケでも演奏する機会を得たことで、また別の角度から音楽に触れる楽しみを味わうことができた。日独のアマチュアオケを比較してみて思うのは、日本のアマオケのレベルや広がり方は、なかなかすごいものではないかということだ。弦楽器のレベルは総じて高いし(おそらくドイツよりも)、マーラーやブルックナーの大曲に挑む団体だって少なくない。そういえば昨年、世界的に活躍する指揮者の友人がこんなことを言っていた。「例えば東京には、山手線の駅ごとにアマチュアオーケストラがあるでしょ。そんな国は日本だけ」と。

アマチュアオケや吹奏楽に親しんでいる人口がこれだけいる。毎年12月になると全国津々浦々でベートーヴェンの第9が奏でられる。海外から来日する一流楽団やソリストの数は相変わらずだし、時々著名アーティストにインタビューをすると、誰もが例外なく日本の聴衆のことを絶賛する。なのに、それらが文化としての豊かさに今ひとつつながっていないと感じられてしまうのはなぜなのだろうか。作家の赤川次郎さんのエッセイ『オーケストラは生きている』の中に、こういう箇所があった。
〈しかし、その一方でプロのオーケストラはどこも大変だ。大阪のように、音楽に全く理解のない市長の下、わずかな補助金も打ち切られ、解散の危機に追い込まれている所もある。
もともと日本の、文化にかける予算の乏しさはとても先進国と言えない状況である。
世界の一流国と言うなら、防衛庁を防衛省にするより、文化庁を文化省にするのが先だろう〉
作曲家の久石譲さんのインタビューも、オーケストラの未来を考える上で示唆に富んでいる。
〈最終的に僕が言いたいことは一点。クラシックが古典芸能になりつつあることへの危機感です。そうでなくするにはどうしたらいいかというと、”今日の音楽”をきちんと演奏することなのです。昔のものだけでなく、今日のもの。それをしなかったら、十年後、二十年後に何も残らない。
(略)
ところが、過当競争の中にある日本の指揮者は実験できないのです。多くのオーケストラが公益法人になって赤字を出すことが許されない中で、集客できる古典ばかりを演奏することになる。
(略)
もちろん、僕がかかわる新日本フィルハーモニー交響楽団をはじめ意欲的に取り組んでいる楽団はあります。だがトータルで言うと、”今日性”につなげる努力はものすごく少ない。このままだと、先細りすると心配しています。オーケストラのあり方を考えるのは、日本の音楽、文化としての音楽について考えることと一緒だと思うのです〉
ところで、冒頭の思い出話を書こうと思ったのは、千葉県の少年少女オーケストラを長年指導されてきた佐治薫子さんのインタビューを読んでいたときだった。ここに紹介されている、佐治先生が指導されてきた学校のひとつ「市川市立鬼高小学校」という名前には記憶がある。私が小学6年の時に聴いた「あの忘れがたき」2つの《新世界》うち、どちらかを佐治先生が指揮されていた可能性はかなり高い。
〈小学生が交響詩『フィンランディア』や『エグモント』序曲を演奏するのがすごいとよく言われますが、難しい曲を上手に弾けるかどうかよりも、日々の練習の過程が大事。結果はあとからついてくるものです。楽しくないところに子供は来ない。合奏クラブに行けば毎日楽しいと思わせることが何より大事なのです。
それから良い演奏にたくさん触れさせる。自分もこんないい音を出したいと思わせる。ベートーベンの『運命』を鑑賞するのに大人も子供も関係ないのです〉
レベルの差はあれど、自分で楽器を持って、オーケストラの中で音を奏でる。そこで学べる大きなこと、これは他の芸術ジャンルについても当てはまることだと思うが、人や文化の多様性であり、「共に生きること」そのものではないかという気がする。今回の特集で私はベルリン・フィルの教育プログラムについて書かせていただいたが、取材中にもそのことを強く感じた。振り返ってみると、4年間大学のオケで活動していても、(大所帯だったこともあって)会話らしい会話をしないまま卒業してしまった仲間もいる。いろいろな考えの人が集まっているから、中には「アイツは気に入らない」ということだってあるだろう。だが、例えばホルンがメロディを奏でているときは、全員で耳を澄ませて一生懸命それに合わせる。そこからベートーヴェンならベートーヴェンの音楽が、意志を持って沸き上がってくる。指揮者グスターボ・ドゥダメルの冒頭のインタビューの言葉を借りれば、「すべては音楽への"奉仕"である」。ここにこそ、オーケストラが持つ力とかけがえのなさがあるように思うのだが。
〈オーケストラはコミュニティであり、社会です。すべてにおいて最も大切なのはハーモニー。それは音楽的、技術的なハーモニーだけでなく、共に生きるという意味でのハーモニー。音楽が創り出すのはまさにそのハーモニーであり、時には社会が見失いがちだけど、いちばん大切なものなのです〉(『グスターボ・ドゥダメル インタビュー』より)
他にも面白い記事が満載の「考える人」秋号をお読みいただけると幸いです。

by berlinHbf | 2014-10-27 17:06 | ベルリンを「読む」 | Comments(5)

季刊誌「考える人」 2014年夏号 - もうひとつのレクラム文庫 -

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発売から大分時間が経ってしまいましたが、最近寄稿する機会のあった季刊誌「考える人」の夏号をここでご紹介したいと思います。昨年秋、この雑誌にまつわる個人的な回想録(こちら)を書いたことがあり、いつかこういう雑誌に寄稿できたらと漠然と願っていましたが、まさかこんなに早く実現するとは思いませんでした。春に執筆依頼をいただいたときは飛び上がりたくなるほど嬉しかったです。

夏号の特集は「文庫」。今年新潮文庫が100周年を迎えることからこのテーマが選ばれたそうで、日本の文庫本のみならず、古今東西の小型本の魅力がたっぷりと語られています。今回私が編集部からいただいた依頼内容は、「日本の文庫に大きな影響を与えたドイツのレクラム文庫。それも、東西分断の時代のレクラムについて書いてほしい」というもの。いかにも「考える人」らしい、渋いテーマだなと思いました。実は、もともとライプツィヒに本社を構えていたレクラム社は、東西ドイツの分断後、非常にドラマチックな過程を経て、会社自体も東西に引き裂かれているのです。最初漠然と思ったのは、東西それぞれのレクラムの視点から描けたら、面白い記事になるのではないかということでした。まず、シュトゥットガルトの近くにある現在のレクラム本社にコンタクトを取ってみたのですが、正直あまりいい反応が得られず、どうしようかと思っていたところ、ライプツィヒ大学に東独時代のレクラム文庫の研究をしているグループがあることを知りました。早速連絡を取ってみたところ、同大書籍学のイングリッド・ゾンターク先生が快く取材に応じてくださることになりました。

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4月にライプツィヒを訪ねて伺ったゾンターク先生のお話は予想以上に面白く、5月にも再訪することになりました。正直なところ、私はそれまで東独のレクラム文庫に対して、ごく大雑把なイメージしか持っていませんでした。名門のレクラム社とはいえ、東ドイツという社会主義国家の中では、体制の意向に添う形の書物しか出せなかったのではないかと・・・。確かに一面ではそうだったのですが、レクラムの社長と、Lektorと呼ばれる企画顧問からなるチームの人々が、限られた条件の中でいかに知恵を絞り、面白い本、そして人々に思考を促す本を出そうと努力していたか、その葛藤を生々しく聞き知ることとなりました。

数日前、今回のレクラムの記事を読んだ、知人の新聞記者の方が、こんな感想を寄せてくださいました。

一企業としてのレクラムが、これほど東独の精神文化を背負っていた存在だったとは驚きでした。私は去年、メルケル首相の小学校時代の同級生(ドレスデンの外科医)に会いに行ったのですが、取材の中で、すでに幼少期から秀才だったメルケルは、10歳くらいでレクラムを読んでいた、という話をこの同級生から聞いたのを思い出しました。今思えば、それこそがこの東独レクラムだったのですね。レクラムは、今各界で活躍している多くの東独出身者の知性・感性を、確かに育てていたのでしょうね。

今回の原稿用紙10枚という文字数は、普段私が書く原稿に比べると多めだったのですが、実際書く段階になると、いかに集めた素材を削るかで苦心することになりました。
いまは亡き東ドイツという国の知られざる本をめぐるお話を、お読みいただけたらうれしく思います。もちろん、「考える人」夏号は、じっくり読んだら一夏かかりそうなほど、他にも読み応えのある記事が満載です。

by berlinHbf | 2014-08-03 00:39 | ベルリンを「読む」 | Comments(3)

東京の本屋がベルリンに

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クロイツベルクの書店「Motto Berlin」に並んだ日本の書籍

3月末から2週間、「ベルリンの街に東京の本屋がやって来た!」をコンセプトに、東京の独立系書店5店が選んだ日本のアートブックと文房具がクロイツベルク地区の書店で展示販売されました。


地下鉄U1のSchlesisches Tor駅から徒歩3分。大通りから中庭に抜けると、アートブックを中心に扱う書店「Motto Berlin」が構えています。今回のイベントを企画したのは、ベルリン在住の原田潤さん。東京の大学を卒業後、グラフィックデザインを学び、現在は本とデザインにまつわる活動をしている彼に、そもそもなぜ日本の本をベルリンに紹介しようと思ったのか聞いてみました。

「一昨年、フランクフルトの書籍見本市で日本の本が紹介されている様子を見たのですが、僕らが楽しんでいる東京の本屋の雰囲気とずいぶん違うなと感じたのです。自分がやってきたことを生かして、日本の面白いものをドイツの人々に媒介できないかと思いました」。

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今回のイベントを企画した原田潤さん

店内に並ぶ書籍は、日本語を解さなくても楽しめる写真集など、70タイトル以上のビジュアルブックやバイリンガル表記の本が中心。2014年の木村伊兵衛賞を受賞した写真家・森栄喜さんの最新刊や、2012年にカッセルの現代美術の国際展「ドクメンタ」に出展した大竹伸朗さんの作品集のほか、戦後間もない時代の九州の街角を収めた井上孝治さんの写真集『想い出の街』といった古書まで、独自の視点で選ばれた幅広い年代の本が並びます。中学生の頃から神保町の古書店に通っていたという原田さんは、「古書を混ぜることで、時間軸に奥行きが出てくるんです」と、本への愛情を込めて語ってくれます。「デジタル書籍が増える中で、本の身体性というものを考えていきたい」との想いから、装丁やパッケージがユニークな本も何冊か置かれていました。

書籍に加えて展示されていたのが、日本発の文房具。ライフやツバメノート、印刷加工連といった日本の高い職人技術を感じさせる美しい紙文具、使いやすい筆記具や机周りの小物など、こちらも思わず欲しくなってしまうものばかり。

今回のイベントは、フィンランドのヘルシンキに次いでベルリンが2都市目の開催で、原田さんは「日本の出版物やものづくりに対するヨーロッパの人々の関心の高さを感じています。今後もドイツやヨーロッパの他都市で紹介していけたら」と意欲を語ります。

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「Motto Berlin」の"副店長"Tinte(写真提供:原田潤さん)

「Motto Berlin」は、アートブックに興味のある方にはお勧めの書店です。ひょっとしたら入り口で、店主が飼っている黒猫の「Tinte」(=「インク」の意)が迎えてくれるかもしれません。
www.mottodistribution.com

MOTTO BERLIN
Skalitzer Str. 68, im Hinterhof
10997 Berlin
U1 Schlesiches Tor
Ph: +49 (0)30 48816407
Fax: +49 (0)30 75442120
Open Monday – Saturday: 12h-20h

by berlinHbf | 2014-04-17 12:40 | ベルリンを「読む」 | Comments(1)

「ミセス」2014年2月号「指揮者・山田和樹の育む音」

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最近発売になった「ミセス」(文化出版社)2月号に「指揮者・山田和樹の育む音」という記事を書かせていただきました。欧州でも活躍中の若手指揮者、山田和樹さんへのインタビュー記事です。9月に編集長の岡崎成美さんと新宿で打ち合わせをした際、岡崎さんは山田さんが一人っ子であることに注目されました。「昔は兄弟だったり、地域の年長者だったりと、『他人から学ぶ』ことが普通に行われていた。現代はそういう形で『知恵』を得ることが難しくなってきている。山田さんはどういう家庭環境のもとで育ったのだろう?」と岡崎さん。婦人雑誌らしく、教育にも焦点を当てた記事となりました。特に印象に残ったのが、山田さんが指揮者になる決意をした高校生の時、お父さんから言われた言葉で、文化の本質を語っているなあと感銘を受けました。ご興味がありましたら、一読いただけると大変うれしく思います。

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昨年10月、取材でジュネーブを訪れた際に見学したサン・ピエール寺院にて
by berlinHbf | 2014-01-14 23:57 | ベルリンを「読む」 | Comments(0)

季刊誌「考える人」(新潮社)と本との出会い

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新潮社に「考える人」という私の好きな季刊誌がある。この秋の一時帰国でのある出会いから、自分と「考える人」、そして本そのものとの出会いについて綴ってみたくなった。


小学3年生の夏、私は親に連れられてたまたま観に行ったある映画に感化され、人生初ともいえる大きな目標を立てた。それは、「中学1年生になったら、ブルートレイン『はやぶさ号』の個室寝台に乗って1人で旅をする」というものだった。「はやぶさ」というのは、東京から西鹿児島までを結び、当時日本最長距離を走った寝台特急のこと。2013年現在、ブルートレインはいよいよ全廃の危機に立たされているが、当時東京駅を発着する寝台列車には少年たちを見知らぬ世界へと誘う独特の華があったように思う。中でも「はやぶさ」や「富士」といった列車には1泊1万4千円の個室寝台が連結されており、これが当時国鉄でもっとも「ぜいたくな」寝台車と言われていた。中学1年になって一人旅をしようと決めたのは、大人料金となる中学生から、一人で旅行するのも許されるだろうというイメージがあったからに過ぎない。私は早速時刻表を買ってきて、空想旅行をするようになった。地図を眺めるのが好きになったのもこの頃からだ。

その年(1984年)の秋、両親のどちらかが「こんな本が出たよ」と新聞に載った新潮社の新刊案内を私に教えてくれた。そこにこんな題名の本が紹介されていた。『旅の終りは個室寝台車』(宮脇俊三著)。タイトルだけに惹かれて、早速この本を買ってもらった。それは私が生まれて初めて買った活字だけの本であり、いわば大人が読む本だった。宮脇俊三という紀行作家が日本のあちこちを一風変わったルートで旅したり、いまや消えて久しい昭和の名物列車に乗ったりする紀行文。最初は毎晩寝る前に父親に読んで聞かせてもらっていたが、宮脇さんの文章は、使われている語彙こそ豊富だが、比較的平易な文体で書かれている。その面白さに気付くと、私は一人でも読むようになった。ここでの旅の特徴は、新潮社の若い編集者(藍孝夫氏という)が毎回同行することで、鉄道に全然興味がない編集者と宮脇さんとの時にちぐはぐなやり取りがユーモアを生む。お目当ての「個室寝台」は最後の章にちょこっと出てくるだけだったが、私はこの本で、活字だけを用いながら車窓からの山河やそこに住む人々の暮らしをも想像させてしまう読書の面白さに開眼した。山陰線に乗れば長門と石見とで瓦の色が違う。日本列島は中央構造線とフォッサ・マグナによって分けられているのか……。宮脇さんの旅を通して、日本各地の地理や風土を楽しみながら学んだ。

この本には続編がある。やはり「小説新潮」の連載から生まれた『途中下車の味』という旅行記だ。この本を書店で見付けたのは、私が中学に上がった春だった。同行者は藍孝夫氏から松家仁之氏という同じ新潮社の若手編集者へと引き継がれる。松家さんも特に鉄道には興味がないらしく、車中で居眠りをするシーンが出てくる一方、地理の洞察をさりげなく示して宮脇さんを驚かせたりもする。この1988年の夏、私は「念願」が叶い、「はやぶさ」に乗って九州へ一人旅をした。この時の旅の話はまたいつかしたいとも思うが、不思議なことに、実際にブルートレインに乗った時間よりも、宮脇さんの旅行記を読みながら、未知の土地や列車に想いを馳せていた時間の方が印象深い記憶として残っているのである。

それから大分時が流れて、2004年ぐらいのことだったと思う。たまたまネット上で松家仁之さんの書かれた文章を見つけた。新潮社の「考える人」という雑誌のメールマガジンで、その前年に76歳で亡くなった宮脇俊三さんの1周忌に関する内容だった。宮脇さんは旅行作家として独立する前、中央公論社の「婦人公論」や「中央公論」の編集長を務め、数々のベストセラーを出す名編集者として知られた。そこでは彼の功績と仕事ぶりについて触れられ、「かつて宮脇さんの担当で一緒に全国をまわったとき、うかつにも何度か居眠りをしてしまった。あの長い時間の中で、うかがえることはいろいろあったはずなのに」と結ばれていた。最後に「編集長 松家仁之」とあった。

宮脇さんの本で名前をずっと覚えていた松家さんが新しい雑誌の編集長になっていたことに、変な話だけれど、私にはいささかの感慨があった。それから「考える人」のメールマガジンを読むようになった。日々の雑感から読んだ本や見た映画の話、時事のテーマに至るまで話題は多彩で、松家さんの流れるようなリズムの、しかも芯の強い文章にすっかりとりこになった。やがて、氏が音楽にも造詣の深い方であることがわかってきた。2007年夏のクラシック音楽の特集号はどうしても読みたくて、日本からの客人に持ってきてもらった。作家の堀江敏幸さんが聞き手役となった音楽評論家の吉田秀和さんへのロングインタビューは、それまで出会ったことのなかった新鮮な空気にあふれ、雑誌というものがまだ持ち得ている可能性さえ感じた。

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松家さんは2010年に作家として独立し、処女小説の『火山のふもとで』が最近読売文学賞を受賞したのは周知の通りである(残念ながら私はまだ未読だが)。作家としての松家さんの文章をこれからたくさん読めるのが待ち遠しい。

松家さんの後任として「考える人」の編集長になったのは、河野通和さんという方だった。この方のメールマガジンの文章も素晴らしく、どんなテーマを題材にしても優しく語りかけてくるようで、本への愛と深い教養がにじみ出ている。もともと河野さんは中央公論社の編集者で、「中央公論」と「婦人公論」の編集長を歴任していたことを後に知った(特に「婦人公論」では大胆な刷新をして、一時期の低迷から生き返らせたという)。つまり、宮脇俊三さんと同じ道を歩まれてきた方だったのだ。面白いのは、宮脇さんが中央公論社を退社した1978年に河野さんが入社され、1、2ヶ月ほど時期が重なっていたことで、お2人の間にはいくばくかの交流もあったようだ。

たまたま自分が好きになった雑誌の編集長が2人共、私の読書体験の原点ともいうべき人と直接のつながりがあったことに、私はささやかな興奮を覚えた。これは何かの縁なのか。もちろん自分の思い込みに過ぎないことはわかっていても、河野さんからのメールマガジンが届く度に、一度お会いしてみたいという思いを抱くようになった。とはいえ、新潮社にコネクションがあるわけでもなく、今回の一時帰国中もそんなことを思いながら時間ばかりが流れていた。が、ベルリンへ戻るまで1週間を切ったある日、私は思い切って新潮社に電話をかけてみた。いきなり知らないところに電話して、口頭で自己アピールをするというのは自分のもっとも苦手とすることである。だが、次に日本に帰って来るのは間違いなく来年だ。そんなことも言っていられなかった。受付の方が「考える人」の編集部につないでくれると、しばらくしてハキハキした口調の女性編集者の声が電話の向こうに聞こえた。私は簡単な自己紹介と、編集長にお会いしたい旨を伝えた。「そういうことでしたら、一度メールをいただけますか。編集長の都合を聞いた上で、折り返しご連絡しますので」。そのわずか20分後ぐらいにお返事が届いた。なんと翌日会っていただけるという。ひょっとしたら私が普段海外に住んでいることで便宜をはかってくださったのかもしれないが、それにしても「まさか」だった。

その翌日、神楽坂にある新潮社のロビーで河野編集長と、前日電話で応対してくださった編集部のKさんにお目にかかることができた。河野さんは物腰穏やかで、包容力を感じさせる人物という印象。中央公論の新人時代、宮脇俊三さんと接したときのことも話してくださった。自分がベルリンでどういうテーマについて書いてきたかもお話ししたが、少々舞い上がってしまい、しどろもどろになってしまった……。びっくりしたのは、ベルリンに共通の知人がいたこと。20分ぐらいだったけれど、今回の日本滞在の中でも特に印象深い時間となった。

ベルリンに戻ってから河野さんにお礼のメールをお送りしたら、すぐに返信をいただいた。そこに、ある新聞のリンクが貼られていた。「考える人」最新号の巻末にある村上春樹氏の寄稿「厚木からの長い道のり」を紹介した日経新聞の記事だった。ご存知の方も多いだろう、村上春樹が指揮者の小澤征爾を連れてジャズピアニストの大西順子の「ラストコンサート」に行った。大西さんの最後の挨拶の最中、突然小澤さんが立ち上がって「おれは(引退に)反対だ」と言い放ち、そこから今年9月の両者の奇跡的な共演に至る道のりを詳しく追った内容だ。日経新聞の記事では最後の方にこう書かれている。
ふだん小説というフィクションの世界に住む村上が「事件」の当事者としてかかわり、克明に書きとめたノンフィクションはまれだろう。筆致には、コンサートさながらのライブ感覚があふれる。雑誌の編集作業を少しでも知るなら、9月6日の出来事を長々、10月発売の季刊誌に入れるのは「ほぼ不可能」と考える。「考える人」の河野通和編集長も、3カ月後の次号に載せるつもりだった。だが「村上さんは熱く語り、どうしても直近の号に収めてほしいと、最速で原稿を届けてきた」。河野編集長は大作家の特別寄稿には異例の巻末とじ込みで対応し、埼玉県内の印刷所で陣頭指揮をとった。
これを読めば河野編集長にとっても大変思い入れの強い記事となったことは想像できるが、それでも河野さんご自身は、このエッセイの存在が周知されていないもどかしさを感じているという。私自身大変面白く拝読したが、不可解に感じる点もあった。それは、ジャズピアニストとして確固たる地位を築き、まさに脂ののった最中にある大西さんが、「なぜ音楽をやめなければならず、そのためにピアノを売り払い、生活していくためのアルバイト(音楽とは全く関係のない仕事だという)をしなければならないのか」ということ。村上さんはその背景として、日本の音楽ビジネスの状況に強い疑問を投げかけているが、詳しい事情までは書かれていない。周知の通り、松本での小澤征爾指揮サイトウ・キネン・オーケストラとの共演は大きな話題を集めた。だが、打ち上げ花火のように華々しいコンサートが終わった今、大西さんが音楽活動を再開するための環境が改善され、復帰の目処はついたのか、とても気になる。河野さんからのメールには、「特集や他の記事ももちろんですが、一人でも多くの方にこれを読んでもらいたい。中村さんの方からもご紹介いただけたら」ということが書かれていた。世界的作家の記事を私なんぞが紹介するのも不思議な話だけれど、雑誌「考える人」と最新号の「厚木からの長い道のり」をご紹介する前に、まず私自身の「『考える人』へとつながる長い道のり」について書いてみたくなった。そのことを河野さんに伝えたら、10月にお会いしたことも含めて、拙ブログに書くことを快く了承いただいた次第。

大学生になる前、一度だけ宮脇俊三さんに手紙を書いたことがある(几帳面な字で書かれたお返事をいただいた)。実際にお会いする機会はついぞなかったが、今回の出会いは10年前に亡くなった宮脇さんが引き合わせてくれたようにも思う(こんなことを書くと、笑われてしまうかもしれないけれど……)。とはいえ、書物には長い時間をかけて人と人とを結びつける不思議な潜在力がある。「考える人」という雑誌は、毎回冒険心にあふれながらも、長い人生の中でじわじわと栄養がつきそうな読み物がぎっしり詰まっている。秋の読書のお供にいかがだろうか。


季刊誌「考える人」2013年秋号
定価1,400円

特集
人を動かすスピーチ

村上春樹 厚木からの長い道のり
小澤征爾が大西順子と共演した『ラプソディー・イン・ブルー』

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by berlinHbf | 2013-11-21 22:53 | ベルリンを「読む」 | Comments(10)

『ベルリンガイドブック〜「素顔のベルリン」増補改訂版』のご案内

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拙著『素顔のベルリン』は、2009年の発売以来、お陰さまで多くの方に手に取っていただいてきました。この度、ダイヤモンド社より増補改訂版として新たな形で発売されることになりましたので、ここで紹介させていただきたいと思います。

今回の改訂では以下のようなことがポイントになっています。

- 全体で16ページ増強し、新しいテーマのコラムをいくつか追加。読み物としてもボリュームが増しました。
- それまでは各エリアの最後に紹介していたカフェ&レストランの情報を、東地区と西地区のそれぞれ最後にまとめて掲載。それにより、カフェ&レストランや名所・見どころの情報も一層充実させることができました。
- 初版の写真も多く残してありますが、この4年間のベルリンの町の移り変わりを鑑みて、適宜写真を差し替えました。ベルリン在住の方やコアなベルリンファンの方も楽しんでいただけたらと願っています。
- 全ての情報や記述を入念に再チェック。地図には新たに縮尺を付け、さらに使いやすくなったと思います。
- これは些細なことですが、基調カラーが青から赤に、そして表紙の紙質も変わりました。マットな感じなのにつるつるしていて、触っていて心地よい感じがします(笑)。

今回はゼロから作るわけではないとはいえ、それでもこの2ヶ月間はとてもハードでした。1日中通りに出て写真を撮る日もあれば、部屋にこもって執筆に追われている日もありました。それでも充実した時間だったと思えるのは、ベルリンという町の面白さに改めて魅せられたゆえだと思っています。これほど集中的に町を歩いたのも久々だったのですが、日々発見の連続で、飽きることがありませんでした。その気持ちが、改訂版のページのところどころに表れているといいのですが。

今回も編集部の伊澤慶一さんやデザイナーの椎名麻美さん、地図製作や印刷所の方など多くの方にお世話になりました。また、妻に多くの取材に同行してもらったことで、この本に女性の視点も盛り込むことができたように思います。ここで心より感謝したいと思います。

Amazonではこちらよりご予約いただけますし、書店には7月19日頃から並び始めるとのことです。『素顔のベルリン』が多くの方に読まれ息の長い本になったことを感謝すると共に、新しい『ベルリンガイドブック』もどうぞよろしくお願いいたします。

ベルリンを舞台にしたノンフィクションを書き上げるのが私の次なる目標です。
by berlinHbf | 2013-07-17 23:57 | ベルリンを「読む」 | Comments(12)

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