ベルリン-東と西が出会う場所。ドイツにありながらドイツではない町。歴史の影に彩られた栄光と悲運の世界都市。そんなベルリンの奥深い魅力をリアルタイムでお届けするブログです。Since 1. August 2005


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中村真人 (Masato)
神奈川県横須賀市生まれ。早稲田大学第一文学部を卒業後、2000年よりベルリン在住。ベルリンの映像制作会社勤務を経て、現在はフリーのライター、ジャーナリスト。


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現在のトップ画像は、ベルリン在住のイラストレーター、高田美穂子さんによるオリジナル作品です(詳しくはこちらより)

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ベルリンフィルの3人のコンサートマスター

先日、ベルリン・フィルの往年のコンサートマスター、ミシェル・シュヴァルベさんのインタビュー記事を掲載しましたが、私のブログを以前から熱心に読んでくださっているla_vera_storiaさんが「ベルリンフィルの3人のコンサートマスター」というタイトルの回想録を寄稿してくださいました。とても興味深い内容だったので、ご本人の了解を得て、ここに掲載させていただくことにしました。長い文章ですが、興味のある方はぜひご覧ください。
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ベルリンフィルの3人のコンサートマスター(la_vera_storiaさん寄稿)

ベルリン中央駅さんのブログで、ベルリンフィルの元コンサートマスターのミシェル・シュヴァルベ氏へのインタビュー記事が出たのを非常に興味深く読みました。

華やかなりし自己のキャリアの全盛時代を、カラヤンという指揮者の下で演奏できた喜びを誇りをもって語っている...そういう印象でした。それは、かつてのベルリンフィルのティンパニ奏者だったヴェルナー・テーリヒェンや、ウィーンフィルの楽団長だったオットー・シュトラッサーの語る亡きフルトヴェングラーへの賛辞とはまた違った意味で興味深かったですね。

70年代初頭よりこのオーケストラに頻繁に接してきた私にとっては、やはり依然としてベルリンフィルハーモニー管弦楽団(以下、BPOと略記)の第一コンサートマスターといえば、ミシェル・シュヴァルベ(以下、MS)トーマス・ブランディス(以下、TB)、そしてレオン・シュピーラー(以下、LS)の3人が非常に印象深いです。80年代に入ってから以降の安永徹さん(以下、TY)ダニエル・スタブラヴァ(以下、DS)のお二人も親しみを感じます。 その後にコンサートマスターになった方々は....少なくとも私にとっては印象が薄く、もうどうでもよいような存在です。最初に名前を出した3人が第一コンサートマスターだった時代、これこそ私にとってのBPOは「仰ぎ見る存在」だったわけです。
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MS、TB、LSの3人体制だった時代、カラヤンの指揮するコンサートでは常に第一ヴァイオリンの第1プルトにはこの3人のうち2人が座っていました。 組み合わせは3通りで、(MS+TB)、(MS+LS)、(TB+LS)ということになります。これはあくまでも私の記憶ですが、(MS+TB)、(MS+LS)の組み合わせでは、第1プルトの表(客席側)は常にMSだったはずです。一方、(TB+LS)の時は、表は2人が交互に座っていたと思います(カラヤン以外の指揮者の場合で第1プルトに第1コンサートマスターが常に2人座っていたコンサート...これは私の記憶ですが、ヨッフム、ベーム、ジュリーニの3人ではなかったでしょうか)。このお三方とも実に堂々としていました。その中でもひときわ威厳があったのはミシェル・シュヴァルベでした。オーケストラのメンバーを起立させ、そして彼はメンバーを代表して一人で聴衆に一礼するわけですが、それはもうこの人が指揮者であってもおかしくないというほどの仰々しいほどの貫禄でした。この人がいると、会場の雰囲気も違って感じたほどでしたね(TBやLSよりも出番の回数は非常に少ないようでしたが、そのことがかえってMSの威厳をより強く感じさせた原因なのかもしれません)。このMSのコンサートマスターとしての存在を見ていると、「このコンサートは日常生活の延長なのではなく、それを超えた特別のものなのだ」ということを無言で示しているようなものでした。それだけではなく、ステージでのMSを見ているとMSは他のメンバーより一段高い地位にいるという印象も受けましたし、多分MSもそれを自覚して振舞っているように思えました。

さて、この3人ですが(あくまでも私個人の印象)、「音」そして「音楽」ともに「BPO臭」が最も薄かったのは、意外なことになんとMSだったように思います(これは同じように実演を聴かれた多くの方の意見を聞いてみたい気もします)。反対に、最も「BPO臭」が濃かったのはトーマス・ブランディス(TB)でした。LSはこの中間よりややTB寄りでした。こういう比較というのも、オーケストラ作品でソロの部分があった箇所での比較になります。TBには「強さ」、「濃さ」、「粘り」が存分にありました。こういう要素はMSには希薄でしたが、一方でMSにはTBにはあまり感じない「柔軟性」、「しなやかさ」がありました。ですから、カラヤンがブラームスの第1交響曲とかシュトラウスの「英雄の生涯」を指揮するときには常にMSがコンサートマスターだった(単にMSに対する信頼感だけではなく、つまりそれらの曲のソロ部分ではカラヤンはTBの音ではなくMSの音を求めていた)といえるのかもしれません。マーラーの第9交響曲などの場合も同様のケースだったかもしれません。カラヤンはブラームスの第1交響曲の第2楽章や「英雄の生涯」のソロの箇所では、私の見た限りではいっさいMSに視線を送ったのを私は見たことがありません。それは完全にMSを信頼していたからでしょう。一方カラヤンがウィーンフィルを指揮したとき、コンサートマスターのヘッツェル氏やキュッヒル氏がソロの箇所があるときは、この2人が弾く際に彼らに視線を落とすのはよく見ました。MSとTBの比較に非常に近いのは、オーボエのシェレンベルガーとローター=コッホとの比較だろうと思います。後者は「強靭さ」、「濃さ」、「粘り」がありました。つまりTBの音楽に近いわけです。一方で前者は「柔軟性」「しなやかさ」そして「透明」で「嫌味のない」音楽でした。

MSとTBの違いは、彼らが室内楽のメンバーとして演奏する場合にもっとはっきり出てきたように思いました。MSが参加した場合は、とりたててBPOの影を感じるといったことはなかったように思いましたが(もっとも、私がそれを実演で聴く機会はたった一度だけでしたが)、TBが主宰していた四重奏団は何度も聴きましたがそれはもうリーダーのTB以下、メンバーは完全に小型BPOの音がしていました。私が好きだったのはTBがコンサートマスターの表側で登場した場合でした。そしてこの場合にチェロの首席にオトマール・ボルヴィツキー(以下、OB)が座ろうものなら、その夜は本当に白熱的な演奏が100%約束されたようなものでした。TBとOBの視線の頻繁なやりとり、呼吸の見事さ、そしてお互いに掛け合いでもするかのように大きく体を動かしてオーケストラを引っ張っていくときの気合は凄かったです。OBというのは、私に言わせれば「ミスターBPO」とでも言うべき人で演奏中の気迫が外に発散してきて、それはもう凄いものでした。TBとの相性もよかったようでしたしね。一方、MSがコンサートマスターの場合は、MSとOBの「掛け合い」というものはほとんど感じませんでした。ただ、OBの気迫がそれによってさほど弱められたりはしていないようには見えましたが。

レオン・シュピーラー(LS)については、「対比の鮮やかさ」と「性格的表現」にその特徴があるように思いました。ですから、「ティルオイレンシュピーゲル」などのソロの部分などでは実に見事でした。LSはTBやMSがBPOを去ったあと、実質上はBPOのコンサートマスターのリーダー格でした。カラヤンの指揮でそれまではMSが弾いていたソロを彼が弾くようになりました。やはりカラヤンは新顔のコンサートマスターの安永さん(TY)やスタブラヴァ(DS)よりも、古顔のLSにソロを託したのでしょうか。LSはそれに見事に応えていたように思いました。MSが定年でBPOを去った後にカラヤンは再び「英雄の生涯」をプログラムで取り上げますが、この時は当初は安永さんが第1プルトの表(つまりソロ)を引くことになっていたものの確か直前でLSに変更になりました。ですから、80年代の映像・録音ではLSがソロを弾いています。ここらあたりの事情は微妙ですね。理由は上記のようなことではないでしょうか。

ミシェル・シュヴァルベ(MS)がカラヤンを敬愛していたのと同様に、カラヤン及びシュトレーゼマンもMSに全幅の信頼をよせていたこと、これはもう間違いない事実と思われます。 ....ただしかし、どうも私の心の中で一点のシミのように感じなくもない点があります。それは、BPOとあのカラヤンの関係が一時的に悪化した時代ですが、確かカラヤンの指揮のコンサートでMSの「BPO引退記念」に彼がコンチェルトを弾くプログラムが(作曲者を思い出せません、メンデルスゾーンだったかな?)が発表されていましたが、カラヤンとBPOの関係悪化でカラヤンが事前にキャンセルした時がありました。カラヤンの「代役」は小沢征爾さんでした。ところが「代役指揮者」が発表されるや否やMSは直後にキャンセルしてしまった...そういうことがありました。今にして考えてみますと(これは憶測の域を出ませんが)、MSはベルリンの聴衆やBPOよりも「カラヤンの側」を選択した...そういうことだったのかもしれません。それぐらいカラヤンを敬愛していたということでしょうけれども、それが正しい行動だったのかどうかについては議論がなくもないでしょう。おっと、これはあくまで「憶測」を前提にした話ですので、軽率には言えますまい。

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by berlinHbf | 2008-02-20 19:45 | ベルリン音楽日記 | Comments(8)
Commented by 焼きそうせいじ at 2008-02-21 15:34 x
マサトさんのシュヴァルベ氏へのインタビュー記事、やはりla_vera_storiaさんの執筆意欲を大いに刺激したようですね。実は、しばらく前に私のサイト(当方の名前をクリックすると出てきます)の掲示板のためにla_vera_storiaさんに送っていただいていたカラヤンについての投稿があったのですが、それを掲載しましたので、あわせてご覧ください。生誕百年となるカラヤンについては、おそらくマサトさんも別に一稿を設けられることでしょうが。
Commented by berlinHbf at 2008-02-21 17:11
>焼きそうせいじさん
コメントありがとうございます。
元々は焼きそうせいじさんのサイトの掲示板に寄稿された文章なので、そちらにもご一報を入れるべきでしたね。ごめんなさい!

http://homepage2.nifty.com/via_regia/mitteleuropa/
mitteleuropa_frame.html

そうそう、次のカラヤン取材に備えて(?)Weltのカラヤン特集誌を買いました。アーノンクールのインタビューやフィルハーモニーにカラヤンの跡をたどるページなどもあって、興味深く読めそうです。
Commented by la_vera_storia at 2008-02-21 19:03 x
フィルハーモニーというのは、あの壁のすぐそばにあったわけです。この「文化フォーラム」という一帯には通常の人家などはなく、そういう意味では、(西)ベルリンにいてフィルハーモニーに行くということは明らかに日常生活とは異なる「孤立した空間領域」に踏み込んでいくような感じがありました。私にとってあそこは常に「非日常」だったわけです。(壁の無くなった現在では、あそこにこの「非日常」という感覚は無くなってしまいました。)私が若き日に全神経を集中してあそこで音楽を聴いたのは、そういう分断時代のベルリンでした。そういう時代のベルリンフィルの3人のコンサートマスター...それは本当に懐かしい記憶です。
Commented by T.N at 2008-02-22 12:35 x
初めて書き込みをします。
皆さんがたのように沢山、ベルリンフィルを聞いている訳ではありませんが、この話しを聞いて思い出したことがあります。マイヤー騒動の直後1984年に大阪で聞いた時のことです。
ドンファンの振り間違えの翌日にシュバルベが座っておりました。
牧神、海、ダフニスだったのですが、その時演奏後カラヤンに対する対応が何とも言えず微妙な感じだった記憶があります。先入観もあったのですがシュバルベともうまく行ってないのかなとそのとき思いました。このインタビューや記事を見ているとどうも違う様です。私の職業は人の顔を見て色々判断する仕事なもので考え過ぎだったのかもしれません。
Commented by berlinHbf at 2008-02-23 22:43
>la_vera_storiaさん
貴重な回想録を掲載させていただき、どうもありがとうございました。
私がフィルハーモニーに行くとき、大抵はポツダム広場から歩いてホールの裏側から入りますが、当時そのルートで行く人はまずいなかったのでしょう(今シーズンからようやくあの裏側出口にも「PHILHARMONIE」と書かれたプレートが取り付けられました)。

そんな「孤立した非日常の空間領域」において「全神経を集中して」聴かれたという音楽の数々、自分のいまの音楽への向かい方も問われるような身が引き締まる思いがしました。
Commented by berlinHbf at 2008-02-23 22:48
>T.Nさん
はじめまして。書き込みありがとうございます。

「ドンファンの振り間違えの」大阪のコンサートは、最近映像で観る機会があり、特にドンファンは感動しました。シュヴァルベさんはこの時の来日公演にも参加していたのですね。「引退コンサート」のことといい、機会があったらご本人に聞いてみたいところです。
Commented by ルーナ伯爵 at 2013-05-18 19:26 x
はじめまして。シュヴァルベさんの引退の頃、ムーティが客演してヴィヴァルディの「四季」とヴェルディの「聖歌四篇」がプログラムされた演奏会があったような記憶があります。
Commented by berlinHbf at 2013-05-26 08:26
ルーナ伯爵さん
はじめまして。コメントありがとうございます。
>ムーティが客演してヴィヴァルディの「四季」と
>ヴェルディの「聖歌四篇」が
そうですか。「四季」のソロがシュヴァルベさんだったかどうか、気になるところですね。

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