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ベルリン-東と西が出会う場所。ドイツにありながらドイツではない町。歴史の影に彩られた栄光と悲運の世界都市。そんなベルリンの奥深い魅力をリアルタイムでお届けするブログです。Since 1. August 2005


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中村真人 (Masato)
神奈川県横須賀市生まれ。早稲田大学第一文学部を卒業後、2000年よりベルリン在住。ベルリンの映像制作会社勤務を経て、現在はフリーのライター、ジャーナリスト。


ベルリンガイドブック
「素顔のベルリン」増補改訂版
¥1,680
ダイヤモンド社
(Amazon、全国各書店にて発売中)

本書は2009年10月発行「素顔のベルリン」の増補改訂版です。2013年に改めて新規取材を行い、データを更新。レストランやショッピング、コラムなどのページも増量し、より充実したガイドブックに生まれ変わりました。

Amazonにてネット購入ができます。



『街歩きのドイツ語 』
¥1,575
三修社

豊富なビジュアルとドイツ語フレーズを楽しめる1冊。基本のあいさつ表現から、街にまつわるドイツ語豆知識まで、ガイドブックとともに旅に役立つ会話集です。




『素顔のベルリン 過去と未来が交錯する12のエリアガイド 』
¥1,575
ダイヤモンド社
(2009年発売)

地球の歩き方シリーズ初、待望のベルリンガイドブック誕生!比類なき歴史を抱えつつ、明日へ向かって日々進化し続ける首都ベルリン。「ドイツで最もドイツらしくない」といわれるこの町の知られざる魅力を、現地在住著者が12のエリアにわけて徹底紹介。


現在のトップ画像は、ベルリン在住のイラストレーター、高田美穂子さんによるオリジナル作品です(詳しくはこちらより)

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タグ:音楽(Musik) ( 113 ) タグの人気記事

発掘の散歩術(57) -ベルリン国立歌劇場の工事現場は今-

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Under den Linden (2015-03)

「ベルリンの新空港はいつ開業するのですか?」「ベルリン国立歌劇場の工事はいつ終わるのですか?」

ここ数年、ベルリンを訪れる人々からもっとも頻繁に聞かれる質問が、この2つかもしれない。そのたびに私は「さあ、どうなんでしょうね」と言葉を濁す。正直、それ以外に答えようがないからだ。もっとも、空港に関しては「このまま、中心部から近くて便利なテーゲル空港でも良いですよね」という展開になることがあるが、歌劇場に関しては今の代替公演地のシラー劇場のままで良いと考える音楽ファンはごくわずかだろう。

2010年秋、当初は3年間の予定で始まった大規模な改修工事。2015年現在も終わりが見えていない国立歌劇場の建物は今どういう状況なのか。昨年から定期的に開催されている「工事現場ツアー」に参加してみることにした。

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3月上旬の日曜日、ウンター・デン・リンデンの劇場の前で待っていると、指定時間にガイドの男性が現れ、参加者一行を劇場の反対側にあるプレハブ小屋に連れて行った。ここでヘルメットと長靴を借りて、いざ出発。

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最初に見学したのは、新しく建設中のリハーサルセンター。オーケストラ、合唱、バレエのそれぞれのリハーサル室のほか、劇場本体の舞台と同じスケールの総合練習用の舞台がここに作られる。このリハーサルセンターは、劇場より一足先にオープンする予定だ。

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足の踏み場もないほどの工事現場

いったん外に出て、足の踏み場もないほどの工事現場を通過して(リハーサルセンターと劇場は地下トンネルで結ばれる)、いよいよ歌劇場の中に入る。無数の配線や柱を越えて客席の真ん中に来た。それが平土間と分かったのは、馬蹄形のカーブに沿った、見覚えのあるロココ風の優美な装飾を持つ屋根が目に入ったからだった。しかし、それ以外に、この劇場に通っていた頃をしのばせるものはほとんど見付けられなかった。東独時代の建物の改装というよりは、ほぼ作り直す形に近いのではないかと思ったほどの混沌ぶりである。

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ベルリン国立歌劇場の平土間の現在の様子

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隣接したアポロザール

不安定な地盤から溢れ出る地下水との闘い、18世紀の要塞部分の出土、工事に携わっていた事務所の倒産など、予想外の出来事が重なったとはいえ、修復費は当初の2億4000万ユーロから3億9000万ユーロへと大幅に膨れ上がり、野党の批判も高まっている。つい最近、今度は現場からアスベストが見付かったというニュースが飛び込んできた。

歌劇場で働く知人がこんなことを話していた。「定年が近い東独出身の団員は『このまま東(の本拠地)に戻ることはないのかな』と悲しがっていますね。一方、この5年の間に、元の劇場を知らない若い団員も入って来ました」
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桟敷席の最上階に行き、天井を見上げた。この改装では天井を5メートルかさ上げすることで、音響効果が改善される予定だ。がらんとした工事現場で、ここに響き渡る音を想像したが、「芸術は長く人生は短し」。現時点で完成予定とされている2017年を、大幅に越えないことを願う。
ドイツニュースダイジェスト 4月3日)


Information
ベルリン国立歌劇場 
Staatsoper Berlin

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1742年、フリードリヒ大王の命により、王立の宮廷歌劇場としてオープンしたドイツでも屈指のオペラ劇場。1992年からダニエル・バレンボイムが終身音楽監督を務めている。2010年秋からの大規模な改修工事に伴い、現在はシャルロッテンブルク区のシラー劇場で公演が行われている。U2のErnst-Reuter-Platz駅から徒歩5分。

チケットオフィス:月~日12:00~19:00(当日券は公演の1時間前より)
住所:Bismarckstr. 110, 10625 Berlin
電話番号:030-20354555
URL:www.staatsoper-berlin.de


国立歌劇場・工事現場ツアー 
Baustellenführung

2014年5月から開催されているベルリン国立歌劇場の工事現場の見学ツアー。人気は高く、1回のツアーの参加人数は20人と限られているため、歌劇場のホームページかチケットオフィスでの予約は必須。参加費は一般15ユーロ(割引10ユーロ。ただし14歳以下は参加不可)。所要時間は約2時間。

開催:毎週日曜と祝日の10:00~18:00にかけて計4回ほど
住所:Unter den Linden, 10117 Berlin
電話番号:030-20354555
URL:www.staatsoper-berlin.de

by berlinHbf | 2015-04-04 10:42 | ベルリン音楽日記 | Comments(1)

早稲田大学交響楽団のベルリン公演2015

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ベルリン・フィルハーモニーに登場した早稲田大学交響楽団
© Waseda Symphony Orchestra

3月8日、
早稲田大学交響楽団がベルリン・フィルハーモニーに客演し、センセーショナルともいえる成功を収めました。

同楽団は、音楽を専門としない早稲田大学の学生のみで構成されているにもかかわらず、1978年にベルリンで行われた青少年オーケストラ・コンクールで優勝して以来、国際的な経験を積み重ねてきました。今回のベルリン公演は、ドイツ、オーストリア、フランスの13都市を巡る第14回海外公演「ヨーロッパツアー2015」の一環として行われたものです。

公演の冒頭では、先頃亡くなったワイツゼッカー元大統領のために、ダヴィッド作曲のトロンボーンと管弦楽のための小協奏曲から「葬送行進曲」が急きょ追悼演奏されました。ワイツゼッカー氏は2005年に早稲田大学の名誉博士号を授与されており、過去3回の同楽団のベルリン公演の客席にもその姿がありました。「我々に多大な支援をしてくださったカラヤン氏は『音楽は政治的な対立を超え、国際的な相互理解を実現するための最善の手段』と語りましたが、ワイツゼッカー氏もまた、平和や戦争というものに対して明確なメッセージを出した方。世界に暴力がはびこる今こそ、その遺志を受け継ぎたいと思いました」と語るのは、同楽団の八巻和彦会長。追悼演奏では、首席トロンボーン奏者の水出和宏さん(商学部4年)が、プロ顔負けの堂々たるソロを披露しました。

続くR.シュトラウスの交響詩「ツァラトゥストゥラはこう語った」では、有名な冒頭部分から、若き音楽家たちが持てる力を全力でぶつけてきます。難易度の高いシュトラウスの作品を、技術的にクリアしているだけにとどまらず、作品に込められた文学性や芳香な雰囲気までもが、日本の学生オーケストラの演奏から聴こえてきたのは驚きでした。

後半の、石井眞木作曲の日本太鼓とオーケストラのための「モノ・プリズム」は、著名な和太鼓奏者である林英哲&英哲風雲の会との共演。雫石が滴り落ちるような和太鼓のピアニシモからホールを揺るがす大音量まで、和と洋の楽器による協奏はまさに圧巻で、心の底から揺り動かされたと言わんばかりに、ベルリンの聴衆は総立ちで喝采を送ったのでした。

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左から楽団員の水出さん、藤井さん、福嶋さん

演奏会後のレセプションで、何人かの楽団員に話を聞きました。「このツアー中で今日が一番まとまって演奏できたと思います。お客さんの反応には感動しました」(コンサートミストレスの藤井琳子さん。政経学部3年)

「我々素人がベルリンやウィーンで演奏会をできるのは、全員が一丸となっているから。1人では何もできませんが、上級生からの財産をしっかり受け継ぎ、100人が同じ方向に向かって取り組めば、きっと何かがお客さんに伝わる。それがオーケストラの神髄だと思っています」(ツアーマネージャーの福嶋雅和さん。教育学部4年)

この公演は、ベルリン・フィルのデジタル・コンサートホールを通してインターネットで生中継されました。ほぼ3年毎に行なわれてきた同楽団のツアー。次の来訪が楽しみです。

So, 08. Mär. 2015 11 Uhr
WASEDA SYMPHONY ORCHESTRA TOKYO
MASAHIKO TANAKA Dirigent

Auf Einladung der Berliner Philharmoniker

Richard Strauss
Also sprach Zarathustra op. 30
Richard Strauss
Don Juan op. 20
Richard Strauss
Salomes Tanz aus der Oper Salome op. 54
Maki Ishii
Mono-Prism für japanische Trommeln und Orchester op. 29

by berlinHbf | 2015-03-28 21:28 | ベルリン音楽日記 | Comments(2)

ベルリン・フィルのジルベスターコンサート

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サイモン・ラトル指揮ベルリン・フィルと共演したメナヘム・プレスラーさん
© Holger Kettner

毎年大晦日恒例のベルリン・フィルのジルベスターコンサートは、ウィーン・フィルのニューイヤーコンサートと並んで、クラシック音楽ファンが一度は生で聴いてみたいと憧れる公演です。チケットが取りにくいことでも知られるこのコンサートを、昨年末、幸運にも聴く機会に恵まれました。

公演は12月29日、30日、31日の3回にわたって行われ、すべて同一プログラム。中でも世界中から注目を浴びる大晦日の公演は値段もワンランク上がり、チケットが殊のほか取りにくいことで知られています。

さて、当日17:30の開演に合わせてフィルハーモニーの大ホールに入ると、舞台は普段と違うブルーの照明に彩られていました。周りの席を見渡すと、スーツや華麗なドレスに身を包んだ紳士淑女の姿が目立ちます。ベルリンでは、クラシックの公演においても普段はラフな姿の若者をよく見掛けますが、この日は趣が異なり、独特の祝祭感に包まれていました。

女性司会者によるテレビ中継用の挨拶の後、指揮者のサイモン・ラトルが登場。フランス人作曲家のラモーが1735年に作曲した《優雅なインドの国々》組曲でコンサートの幕を開けました。打楽器による小気味良いリズムに導かれ、フルートやピッコロがエキゾチックなメロディーを奏でます。

舞台が温まってきたところで、この夜の特別ゲストがゆっくりと舞台に上がりました。ピアニストのメナヘム・プレスラー(91)です。長年、ピアノ三重奏団「ボザール・トリオ」のメンバーとして活躍した彼が、ベルリン・フィルにソロデビューしたのは実に90歳になってからのこと。そのときの演奏に感銘を受けたラトルが直々に今回の共演を打診したのだと言います。曲はモーツァルトのピアノ協奏曲第23番。天から降り注ぐようなヴァイオリンの優美な旋律に乗って音楽が始まり、その絨毯の上をピアノのソロが舞い始めます。最初はタッチがやや弱々しく感じられたものの、そのニュアンスの無尽蔵の豊かさと、天国と現実世界が同居したような深淵な表現に惹き込まれました。第2楽章では木管楽器とのやり取りから味の濃い情感が生まれ、フィナーレではゆっくりめのテンポのソロにラトルが愛情を込めて寄り添います。音楽家も聴衆もこれほど息を凝らして演奏に聴き入るコンサートに、私は近年出会ったことがありません。まさに一期一会と言える瞬間が生まれ、聴衆は総立ちでプレスラーを称えました。

関連記事:

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モーツァルトの演奏後のカーテンコールから © Holger Kettner

後半はドヴォルザークのスラヴ舞曲から2曲、そしてハンガリー人作曲家コダーイの《ハーリ・ヤーノシュ》組曲。いずれも激しいリズムと東欧の民俗的なメロディーに支配された作品で、ラトルとオーケストラがそれらを自由自在にドライブすると、フィルハーモニーの熱気は最高潮に高まりました。

大晦日の公演では、終演後ロビーにてシャンパンやソフトドリンクが無料で振る舞われます。偶然そこで出会った知人と素晴らしい音楽を語らい、反芻しました。人生でおそらくそう何度も経験することがないであろう、印象深い2014年の大晦日でした。

by berlinHbf | 2015-02-07 01:32 | ベルリン音楽日記 | Comments(1)

「家庭画報」2015年1月号 特集「ベートーヴェンの軌跡を巡る」

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最近発売になった「家庭画報」2015年1月号が、「ベートーヴェンの軌跡を巡る」と題して、ベートーヴェンの特集を組んでいます。彼の生誕地であるドイツのボンと作曲家としての飛躍の場となるウィーンの2都市で構成されており、ボン編の取材コーディネートをさせていただきました(ナビゲーター役はピアニストの仲道郁代さん。音楽評論家の伊熊よし子さんが記事を書かれています)。

ボンは、ベルリンを除くと私がドイツで唯一長期間滞在したことがある街。学生時代、ボン大学のサマーコースに参加したのが、ドイツに「住んだ」最初の機会でした。今回ベートーヴェンという切り口で、ボンのことを調べ、取材に同行することができたのは幸せでした。家庭画報ならではの大判の写真を眺めていると、ベートーヴェン博物館でラーデンブルガー館長と学芸員のケンプケンさん直々に案内していただいたことや、仲道さんが1824年作のグラーフ製のピアノを弾かれたときのやわらかい音色が、鮮やかな記憶としてよみがえってきます。また9月に、ベートーヴェン音楽祭の取材でアンドリス・ネルソンス指揮の「第9」やピアニストのレイフ・オヴェ・アンスネスが弾く協奏曲を聴き、さらに彼らに直接お話を伺えたことは、私にとって宝物のような経験になりました。書店などで見かけたら、ぜひお手元に取っていただけたらと思います(新春特別付録も付いています)。

それにしても、お正月の記事を眺めていると、日本の年末年始がちょっと恋しくなりますね^^;)。

以下は「家庭画報」のHPより
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【最新号】2015年1月号歓喜の調べで新年を寿ぐ ベートーヴェンの軌跡を巡る

聴く者の心に、歓喜と、情熱と、希望をもたらしてくれるベートーヴェンの音楽。新年を迎えるこの時期にふさわしい名曲が生まれたゆかりの音楽都市ボンとウィーンを訪ね、ベートーヴェンの魅力に迫ります。

by berlinHbf | 2014-12-04 22:03 | ベルリン音楽日記 | Comments(0)

「考える人」(新潮社) 2014年秋号 - オーケストラをつくろう -

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小学生の頃からクラシック音楽が大好きだった。別に「クラシック音楽」だからというので近づいていったのではない。小学2年生のとき、たまたま転校先の学校の掃除の時間にモーツァルトの「アイネ・クライネ・ナハトムジーク」が流れていて、毎日聴いているうちに好きになったのである。そういうわけで、その音楽を生み出す母体である「オーケストラ」というものに対しても自然と興味を抱くようになった。

生のオーケストラを聴いて、初めて心の底から揺り動かされた。そんな衝撃的ともいえる原体験が私にはある。それはベルリン・フィルでもウィーン・フィルでもなく(さすがに当時生で聴く機会などなかった)、かといって地元のプロのオケでもなく、日本の10代の少年少女が演奏するオーケストラだった。

1988年の1月末だったと思う。小学6年生だった当時、私はリコーダーの音色が好きで、リコーダーアンサンブルのクラブに入っていた。山本典子先生の指導のもと、横須賀市立森崎小学校の音楽クラブはTBSこども音楽コンクールの東日本大会に出場した。会場は東京の郵便貯金会館だったと思う。東京での大舞台ということで緊張もあったのか、私たちのクラブは力を十分に出し切れず、やや不甲斐ない気持ちのまま残りの学校の演奏を聴いていた。今でもよく覚えているが、最後の2つの小学校はオーケストラ演奏だった。確か2つとも千葉県の公立の学校で、そしてなぜか二校ともドヴォルザークの新世界交響曲の第4楽章を演奏した。そして、これがすごかったのだ。

音楽自体のかっこよさはもちろんのこと、その音が放射するエネルギーと輝かしさに圧倒された。何より目の前で音を奏でているフルオーケストラのメンバーが、自分と年の変わらない小学生であるという事実・・・。あれこそが、「自分もいつかあの中に入って音楽をしてみたい!」と真剣に思った最初の瞬間ではなかったかと思う(もちろん、金賞に輝いたのはこの2つのどちらかのオーケストラだった)。幸い私は、アマチュア音楽家にしてはこれまでかなり恵まれたオーケストラ環境で音を奏でることができた方だと思う。いろいろな意味で、心が震えるような体験をしたことも一度や二度ではないし、仲間とのアンサンブルの難しさや苦労も含めて、オーケストラという世界で学んできたことは数限りない。

前置きが長くなってしまった。最近発売になった新潮社の季刊誌「考える人」秋号の特集は「オーケストラをつくろう」。前から愛読していた雑誌がこんなテーマの特集を組むとは、やはりちょっと興奮させられた。オーケストラ特集といっても、「ベルリン・フィルの演奏がいかに素晴らしいか」とか、「あの指揮者のあの曲の何年盤の録音がどうのこうの」といった音楽専門誌の視点ではなく、オーケストラそのものが持つ可能性と夢について存分に語っているのが面白い。紹介されるのも、プロの第一線で活躍する音楽家もいれば、50歳以上でないと入れない「老人オケ」、小学校の PTAを母体にした親子アンサンブルもある。特集の核になっているのが、ベネズエラから始まり世界に旋風を巻き起こしたエル・システマだ。いわば、「エリートだけではないオーケストラ」がテーマともいえる。

曲がりなりにもにもオーケストラに長年関わってきたからゆえに、(時にいくばくかの自省の念とともに・笑)共感を持って感じられる言葉に数多く出会った。例えば・・・
〈私もクラシックのアマチュアオーケストラに入っているので身にしみて分かるが、この種の団体を運営するのは本当に大変だ。練習場の確保、経理、連絡事務、楽譜管理。演奏会をやればホールとの交渉、受付や案内係の手配といった雑用が山のようにある。ところが音を出す以外の仕事はみんなやりたがらない。一方で選曲や練習方法の話になるとてんでに勝手を言う。そのうちに人間関係がもつれてくる。そのあたりが小説にする時の妙でもあったけれど、現実にもゴタゴタ続きの団体は枚挙に暇がない〉(荒木源「実録『オケ老人!』」より)
〈なぜそこまでして、オケに打ち込めるんだろう?
「それはもう・・・・・・アンサンブルで音が合ったときの喜びといったら!コンサートが近づいてきて、それまでなかった打楽器なんかが参加して初めて合わせたときの、あの震えるような感動・・・・・・鳥肌が立つような瞬間ったらない」(竹内さん)〉(『親子で奏でるアンサンブル』より)
日本での大学時代の4年間は、本当にどっぷりオーケストラ活動に浸かった。あんな時間はもう二度と持てないだろう。当時の仲間の近況をSNSなどで読み知ると、今も会社員や主婦をしながら複数のアマオケを掛け持ちしている人もいれば、きっぱりやめてしまった人もいる。その両方の気持ちが何となくわかる。このデジタル時代においても、オーケストラでは数十人、ときには100人近いメンバーが集まらないことには基本的に練習が始まらない。娯楽にあふれ、スケジュールが過密な現代社会において、これはなかなか大変なことだ。もちろんお金だって結構かかる。私の場合は、ベルリンのアマオケでも演奏する機会を得たことで、また別の角度から音楽に触れる楽しみを味わうことができた。日独のアマチュアオケを比較してみて思うのは、日本のアマオケのレベルや広がり方は、なかなかすごいものではないかということだ。弦楽器のレベルは総じて高いし(おそらくドイツよりも)、マーラーやブルックナーの大曲に挑む団体だって少なくない。そういえば昨年、世界的に活躍する指揮者の友人がこんなことを言っていた。「例えば東京には、山手線の駅ごとにアマチュアオーケストラがあるでしょ。そんな国は日本だけ」と。

アマチュアオケや吹奏楽に親しんでいる人口がこれだけいる。毎年12月になると全国津々浦々でベートーヴェンの第9が奏でられる。海外から来日する一流楽団やソリストの数は相変わらずだし、時々著名アーティストにインタビューをすると、誰もが例外なく日本の聴衆のことを絶賛する。なのに、それらが文化としての豊かさに今ひとつつながっていないと感じられてしまうのはなぜなのだろうか。作家の赤川次郎さんのエッセイ『オーケストラは生きている』の中に、こういう箇所があった。
〈しかし、その一方でプロのオーケストラはどこも大変だ。大阪のように、音楽に全く理解のない市長の下、わずかな補助金も打ち切られ、解散の危機に追い込まれている所もある。
もともと日本の、文化にかける予算の乏しさはとても先進国と言えない状況である。
世界の一流国と言うなら、防衛庁を防衛省にするより、文化庁を文化省にするのが先だろう〉
作曲家の久石譲さんのインタビューも、オーケストラの未来を考える上で示唆に富んでいる。
〈最終的に僕が言いたいことは一点。クラシックが古典芸能になりつつあることへの危機感です。そうでなくするにはどうしたらいいかというと、”今日の音楽”をきちんと演奏することなのです。昔のものだけでなく、今日のもの。それをしなかったら、十年後、二十年後に何も残らない。
(略)
ところが、過当競争の中にある日本の指揮者は実験できないのです。多くのオーケストラが公益法人になって赤字を出すことが許されない中で、集客できる古典ばかりを演奏することになる。
(略)
もちろん、僕がかかわる新日本フィルハーモニー交響楽団をはじめ意欲的に取り組んでいる楽団はあります。だがトータルで言うと、”今日性”につなげる努力はものすごく少ない。このままだと、先細りすると心配しています。オーケストラのあり方を考えるのは、日本の音楽、文化としての音楽について考えることと一緒だと思うのです〉
ところで、冒頭の思い出話を書こうと思ったのは、千葉県の少年少女オーケストラを長年指導されてきた佐治薫子さんのインタビューを読んでいたときだった。ここに紹介されている、佐治先生が指導されてきた学校のひとつ「市川市立鬼高小学校」という名前には記憶がある。私が小学6年の時に聴いた「あの忘れがたき」2つの《新世界》うち、どちらかを佐治先生が指揮されていた可能性はかなり高い。
〈小学生が交響詩『フィンランディア』や『エグモント』序曲を演奏するのがすごいとよく言われますが、難しい曲を上手に弾けるかどうかよりも、日々の練習の過程が大事。結果はあとからついてくるものです。楽しくないところに子供は来ない。合奏クラブに行けば毎日楽しいと思わせることが何より大事なのです。
それから良い演奏にたくさん触れさせる。自分もこんないい音を出したいと思わせる。ベートーベンの『運命』を鑑賞するのに大人も子供も関係ないのです〉
レベルの差はあれど、自分で楽器を持って、オーケストラの中で音を奏でる。そこで学べる大きなこと、これは他の芸術ジャンルについても当てはまることだと思うが、人や文化の多様性であり、「共に生きること」そのものではないかという気がする。今回の特集で私はベルリン・フィルの教育プログラムについて書かせていただいたが、取材中にもそのことを強く感じた。振り返ってみると、4年間大学のオケで活動していても、(大所帯だったこともあって)会話らしい会話をしないまま卒業してしまった仲間もいる。いろいろな考えの人が集まっているから、中には「アイツは気に入らない」ということだってあるだろう。だが、例えばホルンがメロディを奏でているときは、全員で耳を澄ませて一生懸命それに合わせる。そこからベートーヴェンならベートーヴェンの音楽が、意志を持って沸き上がってくる。指揮者グスターボ・ドゥダメルの冒頭のインタビューの言葉を借りれば、「すべては音楽への"奉仕"である」。ここにこそ、オーケストラが持つ力とかけがえのなさがあるように思うのだが。
〈オーケストラはコミュニティであり、社会です。すべてにおいて最も大切なのはハーモニー。それは音楽的、技術的なハーモニーだけでなく、共に生きるという意味でのハーモニー。音楽が創り出すのはまさにそのハーモニーであり、時には社会が見失いがちだけど、いちばん大切なものなのです〉(『グスターボ・ドゥダメル インタビュー』より)
他にも面白い記事が満載の「考える人」秋号をお読みいただけると幸いです。

by berlinHbf | 2014-10-27 17:06 | ベルリンを「読む」 | Comments(5)

発掘の散歩術(50) -ピアノ・サロン・クリストフォリでアンティークの音色を愉しむ-

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アンティークのピアノがひしめき合うピアノ・サロン・クリストフォリの内部

おかげさまで50回目の節目を迎えたこの連載で、ヴェディング地区はまだ一度も取り上げたことのないエリアである。行政区分上はミッテに属するが、これといった観光名所があるわけでもなく、どちらかといえば日頃注目されることの少ない地味な場所。だが、人と場所とモノとが思わぬ形で出会うのが、ベルリンの面白いところだ。「ヴェディングに面白いピアノ・サロンがある」と知人が教えてくれた情報を頼りに、今回も「発掘の散歩」に出掛けた。

U9の終点オスロ通り駅で降りて、スウェーデン通りを南に歩く。北欧の地名に因んだ通りが多く見られるが、実際のヴェディング地区はトルコやアラブ系など、移民の背景を持つ住民の割合が全体の48%にも及ぶ多文化エリア。ちなみに、ワールドカップ・ブラジル大会を制したドイツ代表のDFジェローム・ボアテングは、異母兄弟のケヴィン=プリンスと共に、少年時代にこの界隈でボールを蹴っていたという。ヴェディングの人々が誇るサクセスストーリーだ。

パンケという川に沿って歩いて行くと、赤レンガのいかにも工場跡らしき建物が見えてきた。かつてのベルリン交通局の工場で、数年前からUferhallenという名で文化活動の拠点になっている。この一角にある「ピアノ・サロン・クリストフォリ」の前には、すでに人だかりができていた。

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コンサートの休憩中の様子

天井の高い通路を抜けて、入り口から「サロン」の中に入った瞬間、私は唖然とした。そこには古いピアノや鍵盤などが無造作にぎっしりと積まれ、とにかく、ただ事ではない空間だ。ピアノの山を抜けると、座席とステージが広がり、客は名簿に記載された自分の名前と席を確認して、客席に着くシステムになっている。

この工房兼サロンの所有主であるクリストフ・シュライバー氏は、本業は神経科医という現役のお医者さんだ。子どもの頃からピアノに親しんできたというシュライバー氏は、あるときオークションで約100年前の古いピアノを手に入れ、アンティークのピアノをよみがえらせることに喜びを覚えたという。ピアノの構造や修理の技法を学んだ末、ついには自分の工房を持つに至る。知り合いの音楽家がここへやって来て演奏しているうちに、いつしか本格的なコンサートへと発展。現在、工房には演奏可能な歴史的なピアノが約30台あるそうだ。

驚くべきは、ここでの公演数の多さ。9月だけでも19公演が行われ、ほとんどコンサートホール並みの稼働率である。この日、私が聴いたシューマンとブラームスのピアノ四重奏曲を核にしたプログラムには、ベルリン・フィルの第1ソロ・チェリストに就任したばかりのブルーノ・ドルペレールを中心とした、若手の一級メンバーが顔を揃えた。ちなみに、ピアニストの福間洸太朗さんやヴァイオリニストの庄司紗矢香さんも、このサロンの常連だ。

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古いピアノなので、現代の楽器のようにバリバリ鳴るわけではないし、音程も精緻ではない。だが、ピアノを愛する職人によってよみがえったアンティークの楽器は、満員の聴衆の前で、再び心地良く呼吸しているように感じられた。
ドイツニュースダイジェスト 9月5日)


Information
ピアノ・サロン・クリストフォリ 
Piano Salon Christophori

ヴェディング地区にあるピアノ・サロン。コンサートの予約は下記HPからできる。公演当日の17時まで、オンラインでの変更やキャンセルも可能。通常、決まった入場料はなく、出演者や開演前と休憩中に振る舞われる飲み物への募金によって賄われている。筆者が聴いたコンサートでは、「今晩は最低13ユーロからの募金をお願いします」とアナウンスがあった。

住所:Uferstr. 8, 13357 Berlin
電話番号:0176-39007753
URL:www.konzertfluegel.com


カフェ・プフェルトナー 
Café Pförtner

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「Pförtner=守衛」の名が示す通り、かつての工場の守衛の建物にあるカフェ&レストラン。食事はイタリア料理がメインで、手頃で美味しいと評判が高い。カフェに面して古いバスが横たわっているが、実は裏でカフェとつながっており、バスの中でも食事ができるようになっている。そんな粋な遊び心も魅力。

営業:月~金9:00~24:00、土11:00~24:00
住所:Uferstr. 8-11, 13357 Berlin
電話番号:030-5036 9854

by berlinHbf | 2014-09-12 01:19 | ベルリン発掘(西) | Comments(2)

Fête de la Musique体験記

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筆者が出演したフルート・アンサンブル。入場無料、ギャラなしがこの音楽祭の基本ルール ©Gerrit Wegener

「フルート・カルテットを組んで、
Fête de la Musiqueに出てみない?」。春のある日、フランス人とドイツ人の両親を持つ友人がふと言いました。彼女は、ベルリンのアマチュア・オーケストラで何度も一緒に演奏したことがある音楽仲間。私はこの「フェット・ドゥ・ラ・ミュージック」のことを何も知らぬまま、ほかのメンバーと定期的に集まってフルート四重奏の練習をすることになりました。

「音楽の祭典」を意味するこの音楽祭は、1982年にフランス文化省の提唱によって産声を上げました。「音楽はすべての人のもの」という基本精神に則り、プロ、アマ、老若男女問わず誰でも無料で参加できるのが特徴で、夜が1年で最も短い夏至の6月21日に毎年開催されます。人気の高まりとともに海外にも広まり、今やドイツだけでも45都市で開催されているそうです。

さて、迎えた6月21日の遅い午後、私たちは自転車に乗って地下鉄のシェーネベルク市庁舎駅の前に集まりました。この日の16:00から22:00まで、ベルリン市内の公共の場(街路、広場、公園など)であれば、基本的にどこでも事前申請なしに演奏して良いことになっています。

風がやや強かったので、譜面を洗濯バサミで留めて演奏開始! 正直なところ、「人通りがそれほど多くない街路で演奏して、聴いてくれる人がいるのだろうか」と若干心配していたのですが、自転車に乗った人やベビーカーを押した人たちが自然と足を止めて耳を傾けてくれました。私たちが演奏したのは、スメタナの「モルダウ」やメンデルスゾーンの「夏の夜の夢」(まさに夏至の夜がテーマの音楽!)のスケルツォなどクラシック作品から、「カリニョーゾ」「カーニバルの朝」といったブラジル音楽まで。最後はスピード感のある「熊蜂の飛行」を吹き終えると、お客さんが大きな拍手を送ってくれました。

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地下鉄のシェーネベルク市庁舎駅前にて ©Gerrit Wegener

続いて自転車に乗ってアイゼナハ通りへ。使徒パウルス教会の前の広場が次の「舞台」です。近くの公園にいた親子連れなどが足を止めてくれ、良い雰囲気になってきたのですが、突然強い雨が降り出しました。教会の方の厚意で中にしばらく避難させていただき、その後、肌寒い中なんとか最後まで吹き切りましたが、私たちの舞台はここで終了。近くのレストランで祝杯を挙げました。

この日はワールドカップのドイツ対ガーナ戦やCSD(同性愛者のパレード)もありましたが、ベルリンの多くの街角で無料コンサートが行われ、人気バンドの「エレメント・オブ・クライム」が登場したクロイツベルクのオラーニエン広場には、3000人以上ものファンが集まったそうです。私自身、コンサートホールや教会で演奏するのとはひと味違う、音楽の喜びを味わった1日となりました。
www.fetedelamusique.de
by berlinHbf | 2014-07-21 00:13 | ベルリン音楽日記 | Comments(1)

レオニダス・カヴァコスが弾くブラームス

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© Daniel Regan

しばらく音楽会から足が遠ざかっていた。先週は体調を崩したり、気持ちにやや余裕がなかったせいもある。机の上で作業しながら、好きな音楽をかけたり、よくかけているKulturradioから流れてくる音楽に耳を傾けるのももちろん楽しい。が、この数週間に聴いた音楽の記憶が吹っ飛んでしまうような2つの実演に接してしまった。記憶の新しいところから10日のベルリン・ドイツ交響楽団の演奏会から書いておきたい。

この演奏会、実はある知人が用事で行けなくなり、私にお声をかけてくださったのだった。ブロックAの前から4列目という、特にヴァイオリンのカヴァコスを聴くには最高の席だった。黒一色のスーツを着たカヴァコスと若手指揮者のダーヴィド・アフカムが登場。カヴァコスは長髪に眼鏡という出で立ちが特徴的だ。ブラームスのヴァイオリン協奏曲は、あの雄大な序章が鳴り始めたときから、心の中が充実感で満たされる思いがする。カヴァコスはオーケストラの方を向いており、表情は伺えないが、彼の内なる緊張感がじわじわ高まり、聴き手にまである種の気が伝わってくるのは、今回の特等席ならでは^^。そこへ、ヴァイオリンのソロが勢いよく切り裂く。

協奏曲の演奏で特に肝心なのは、当然ながら最初にソロが入ってくる部分だろう。ここでオケとソリストの両者がうまくかみ合い、互いを高め合う予感のようなものが生まれれば、聴き手にある一定以上の感動は約束される。その点、この夜のカヴァコスは最初の数分の技巧的なソロで、聴き手を虜にしてしまったといえるかもしれない。少なくとも私は彼の奏でる音楽にずっと釘付けの状態だった。体温のある美しい音色、左手の技術の確かさはもちろんなのだが、彼の場合、よほど弾く姿勢がいいのか(もちろんそればかりではないだろうが)、どんな箇所でも体の芯がぶれず、音楽が求心力を失うことがない。カヴァコスという人は、物事をある形の中に冷静に収めようとする面と、感情を自然な形で表に出そうとするロマンチックな側面とが、高い次元でとてもバランスよく融合しているように感じられるのだ。

長さをまったく感じさせなかった1楽章。2楽章のオーボエのメロディーを受け継いで音楽がゆっくり膨れ上がっていくところも感動的だった。フィナーレではジプシーのリズムが弾ける。冒頭のリズムが繰り返される過程で、カヴァコスはさりげなく遊びの装飾も加え、一段と血沸き肉踊る音楽となってゆく。高校生のときから好きな曲だが、ソリストとオーケストラががっぷりに組んでの、このようなゾクゾクするような時間を体験したことは今までなかった。

私がカヴァコスを初めて聴いたのは、2003年5月の彼のベルリン・フィルとのデビュー公演だった。オール・シベリウスのプログラムで、ヴァイオリン協奏曲のほか、ベルグルントが交響曲の第6と第7番を振ったのだ。録音が残っていたら、改めてじっくり聴き直したい想い出の演奏会である。私は舞台左サイドの階段の踊り場で立って聴いていたのだが、すぐ隣の貴賓席を見たら、往年のベルリン・フィルの名コンサートマスターだったシュヴァルベさんがいらした。カヴァコスの演奏を身を乗り出すように聴き入り、演奏が終わると、歓声を上げて拍手を送っていたのをよく覚えている。私自身、初めてカヴァコスを聴いたこのとき、はっと揺り動かされる瞬間が何度かあった。その後、彼はベルリン・フィルにソリストとして定期的に呼ばれるようになり、数年前はアーティスト・イン・レジデンスも務めた。日本ではまだそれほどの知名度はないようだが、現代最高のヴァイオリニストの一人なのは間違いない。古典、現代問わず、今後も聴き続けていきたい音楽家だ。

長身でなかなかハンサムな若手指揮者アフカムは、ショスタコーヴィチも好演した。もっとも、この夜私にとってはブラームスの印象が強すぎて、他がややかすんでしまった感は否めない。

DAVID AFKHAM
Leonidas Kavakos Violine
Deutsches Symphonie-Orchester Berlin


Anton Webern
Sechs Stücke für Orchester op. 6 (1928) 
Johannes Brahms
Violinkonzert D-Dur 
Dmitri Schostakowitsch
Symphonie Nr. 15 A-Dur

by berlinHbf | 2014-04-12 23:57 | ベルリン音楽日記 | Comments(3)

ピアニスト メナヘム・プレスラー

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ハンス・アイスラー音大のマスタークラスで指導したメナヘム・プレスラー氏

メナヘム・プレスラーというピアニストをご存じでしょうか? クラシック音楽に興味がある人でも、誰もが知る名前ではないかもしれません。それは、プレスラー氏がソリストとしてよりも、「ボザール・トリオ」という米国のピアノ三重奏団で長年活躍してきたからなのですが、驚くべきことに90歳の今もなお、精力的に演奏活動を続けています。1月中旬、この超ベテランピアニストがベルリン・フィルと“初共演“すると聞き、期待を胸に出掛けてきました。

万雷の拍手の中、小柄なプレスラー氏が舞台に現れました。曲目はモーツァルトのピアノ協奏曲第17番。セミヨン・ビシュコフ指揮の柔らかな伴奏に乗って、ピアノのソロが始まります。極めて軽く透明なタッチに耳を奪われました。何より驚いたのは、彼独自の世界観を感じさせながらも、オーケストラと完全に調和していたこと。木管楽器が活躍するこの作品で、愛らしいメロディーの掛け合いが幾度も交わされ、協奏曲というよりは室内楽を聴いているかのような親密な演奏でした。

アンコールで演奏されたのが、ショパンの遺作となった夜想曲第20番。忍び寄る死と生が同居したような、不思議な軽みと温かみに包まれた演奏で、聴衆は最後、総立ちでピアニストを讃えました。

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マスタークラスの様子

その翌日、プレスラー氏がベルリンのハンス・アイスラー音楽大学の若手ピアノ三重奏団に対してマスタークラスを行うというので、見学に行きました。前夜、天上のような音楽を奏でていた人とは思えないほど厳しく、また細かい指導に驚きます。「タッチが乱暴過ぎる。手を無重力のまま下ろすような感じで」「楽譜をよく見て! ピアニッシモと書いてあるでしょう」。英語だけでなく、時折流暢なドイツ語も交じります。彼は1923年にマグデブルクでユダヤ人として生まれ、1938年の「水晶の夜」事件の後、ナチスによる迫害を逃れて米国に亡命した経歴を持ちます。ドイツに帰化したのは2012年と言いますから、祖国への果てしない道のりに思いが至ります。

レッスンの後、プレスラー氏と少し言葉を交わすことができました。別れ際、にっこり笑みを浮かべて一言、「春に日本に行くよ。サヤカと共演するんだ」。この4月、ヴァイオリニストの庄司紗矢香さんと日本でデュオ・リサイタルを行うそうです。

何かを達観したような美しいピアノの音色とその背景にある激動の歩み。そして、今も持ち続けている好奇心と向上心。プレスラー氏の歩みはこの先も続きます。
ドイツニュースダイジェスト 2月21日)
by berlinHbf | 2014-02-22 21:50 | ベルリン音楽日記 | Comments(2)

「ミセス」2014年2月号「指揮者・山田和樹の育む音」

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最近発売になった「ミセス」(文化出版社)2月号に「指揮者・山田和樹の育む音」という記事を書かせていただきました。欧州でも活躍中の若手指揮者、山田和樹さんへのインタビュー記事です。9月に編集長の岡崎成美さんと新宿で打ち合わせをした際、岡崎さんは山田さんが一人っ子であることに注目されました。「昔は兄弟だったり、地域の年長者だったりと、『他人から学ぶ』ことが普通に行われていた。現代はそういう形で『知恵』を得ることが難しくなってきている。山田さんはどういう家庭環境のもとで育ったのだろう?」と岡崎さん。婦人雑誌らしく、教育にも焦点を当てた記事となりました。特に印象に残ったのが、山田さんが指揮者になる決意をした高校生の時、お父さんから言われた言葉で、文化の本質を語っているなあと感銘を受けました。ご興味がありましたら、一読いただけると大変うれしく思います。

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昨年10月、取材でジュネーブを訪れた際に見学したサン・ピエール寺院にて
by berlinHbf | 2014-01-14 23:57 | ベルリンを「読む」 | Comments(0)

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