ベルリン-東と西が出会う場所。ドイツにありながらドイツではない町。歴史の影に彩られた栄光と悲運の世界都市。そんなベルリンの奥深い魅力をリアルタイムでお届けするブログです。Since 1. August 2005


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中村真人 (Masato)
神奈川県横須賀市生まれ。早稲田大学第一文学部を卒業後、2000年よりベルリン在住。ベルリンの映像制作会社勤務を経て、現在はフリーのライター、ジャーナリスト。


ベルリンガイドブック
「素顔のベルリン」増補改訂版
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(Amazon、全国各書店にて発売中)

本書は2009年10月発行「素顔のベルリン」の増補改訂版です。2013年に改めて新規取材を行い、データを更新。レストランやショッピング、コラムなどのページも増量し、より充実したガイドブックに生まれ変わりました。

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地球の歩き方シリーズ初、待望のベルリンガイドブック誕生!比類なき歴史を抱えつつ、明日へ向かって日々進化し続ける首都ベルリン。「ドイツで最もドイツらしくない」といわれるこの町の知られざる魅力を、現地在住著者が12のエリアにわけて徹底紹介。


現在のトップ画像は、ベルリン在住のイラストレーター、高田美穂子さんによるオリジナル作品です(詳しくはこちらより)

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カテゴリ:ベルリン音楽日記( 149 )

指揮者キリル・ペトレンコのこと

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6月24日のベルリンの日刊紙より

音楽に限らず、こんなに興奮させてくれるニュースは最近ほかになかった。6月23日、パリの知人宅で「キリル・ペトレンコがベルリン・フィルの次期首席指揮者に決定」という知らせを同団のプレス用メールで知ったときは、思わず声を上げてしまった。その後も折に触れて「あのペトレンコがベルリン・フィルの次期シェフになるのか……」と思うと、それだけでドキドキするという日が10日間ぐらい続いた。有力候補とされていた他の指揮者、例えばネルソンス、ティーレマン、ドゥダメルの誰かが選ばれても、こんな気持ちにはおそらくならなかっただろう。もうそれだけで、ベルリン・フィルのメンバーが下した決断に感謝したくなるほどだ。

キリル・ペトレンコという音楽家は、ベルリンに住んだからこそ出会えた人だと思っている。初めて彼の生演奏に接したのは、2002年9月、コーミッシェ・オーパーだった。ちょうどラトルがベルリン・フィルの音楽監督になって最初の公演が行われた前後の日ではなかったかと思う。このオペラ劇場で音楽を聴いたのは確かそのときが初めてだった。当時私は30歳以下限定の「クラシック・カード」というのを持っていて(今もあるのだろうか)、わずかな年間費を払えば、オペラもコンサートも10ユーロほどでその日余っている良席のチケットを買うことができた。そのときも平土間の、ほとんど最前列に近い席だったと記憶している。演目はスメタナのオペラ《売られた花嫁》。事前の準備といえば、話の筋を簡単に予習したぐらいで、そのシーズンからこの歌劇場の音楽監督になるペトレンコという指揮者のことは何も知らなかった。正直言うと、当時のコーミッシェのオケはあまり上手くないと聞いていたので、失礼ながらやや甘く見ていた面は否めない。

ところが、序曲が鳴り始めた瞬間から度肝を抜かれてしまった。ピットの底からマグマがわき上がってくるかのような音楽の怒涛の勢いと、惚れ惚れとするような表現の冴え!それでいて、力技だけで音楽を引っ張っていく人だけでないことは明らかで、細かい音符まで音楽が何と息づいていたことだろう。オケの力の入れようも素晴らしく、最初の序曲だけで公演全体の半分ぐらいのエネルギーを使ってしまったのではと思うほどの熱演が繰り広げられたのだった。カーテンコールの際、驚くほど小柄なペトレンコが現れ、真下のオケに向かってニコニコと拍手で称える姿は、どこか可愛らしくもあった。この男が先ほどまであのキレキレの音楽を生み出していたのかと、その落差にも私はびっくりした。

ペトレンコというすごい指揮者がベルリンにやって来たという評判はすぐに広まり、当時私の周りの音楽好きの間でもよく話題になった。それからは、意識的に彼の公演に聴きに出かけるようになった。《イェヌーファ》、《ファルスタッフ》、《コジ・ファン・トゥッテ》、レハールのオペレッタ《微笑みの国》という珍しい演目まで。とりわけ感動したのは、2006年4月の《ばらの騎士》のプレミエだった。上演が進むにつれて客席のボルテージが上がり、第3幕でペトレンコが登場したときは、それだけでブラボーが飛び交った。伝説的なカルロス・クライバーの上演をも思い出したほどだった。近年、ウィーンで彼の振る《ばらの騎士》を聴いた知人は、「彼がウィーンで振った《ばらの騎士》は生で3回聴いたクライバーを上書きしかねない程、鮮烈な印象」とTwitterに書いていたので、私の印象もまんざら大げさなものではなかったと思う。

オペラに比べると、オーケストラ演奏会を聴いた数は限られているが、そのどれもが印象に残っている。2005年7月に聴いたコーミッシェ管とのコンサートでは、冒頭に演奏されたチャイコフスキーの《イタリア奇想曲》がすごかった(当時の手帳をめくると、この曲の横に赤字で「超名演」と書き込まれている・笑)。ペトレンコの音楽は決して情緒に流されることがなく、きっちりとした構成力というか確固たる枠組みがあるのだが、音と音がぶつかるエネルギーが化学反応を起こして、ある地点に来ると音の力が枠を飛び越えてしまうという幸福な瞬間がある。このときがその最たる例だった。2006年の年末に聴いたニューイヤーコンサートでは、母国ロシアの聞いたこともないような作曲家の映画音楽ばかりを取り上げ、そこでも聴衆を興奮の渦に巻き込んだ。そのとき彼は進行役も務め、初めてドイツ語を話す姿を聞いたが、声は小さめでシャイな人柄を伺わせた。

2007年にベルリンを去った後は、ペトレンコの実演に接する機会はめっきりなくなってしまった(ただ一つ、2013年のバイロイトの《指環》を除いては)。世界を忙しく駆け巡るタイプの活動をする人ではないし(日本にもまだ行ったことがないという)、録音でさえほとんどない。チケットを買っていた2011年末のベルリン・フィルとの公演は、直前にキャンセルになってしまった。聞くところによると、ペトレンコは天才肌の音楽家に特有の(というべきなのか)、非常に繊細な内面を持っている人らしい(昨年12月のベルリン・フィルとのマーラーの公演のドタキャンの後は、もう次期監督候補から落ちてしまったとも囁かれていた)。そういう意味では懸念材料もなくはない。ベルリン・フィルの首席指揮者への注目度は並大抵ではないし、何より本番の数が多い。あのクラウディオ・アバドも、首席指揮者の座から降りた後、何かのインタビューで「あまりに多くの本番を振って、私は疲弊していた」というニュアンスのことを言っていた。ペトレンコには才能を消耗してほしくないと切に願う。

レパートリーに関しても、秘密のヴェールに包まれた部分が結構ある。考えてみたら、コーミッシェ時代の5年間で、ベートーヴェンやブラームスのシンフォニーを振ったことは、一度でもあったのだろうか?(マーラーやショスタコーヴィチは取り上げたらしいが、残念ながら私は聴いていない)。でも、そんな謎な部分も含めて私はペトレンコに惹かれている。楽譜を丁寧に読み込み、音楽に対してひたむきで謙虚な姿勢を持っており、同時に天才的な閃きも持ち合わせた類い稀な人。その印象は、初めて聴いた頃から何ら変わっていない。ペトレンコが指揮するベートーヴェンやモーツァルト、さらには同時代の曲をベルリン・フィルの演奏で聴ける日が来るのかと思うと、やはり興奮を抑え切れないのである。

by berlinHbf | 2015-07-13 23:09 | ベルリン音楽日記 | Comments(1)

発掘の散歩術(57) -ベルリン国立歌劇場の工事現場は今-

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Under den Linden (2015-03)

「ベルリンの新空港はいつ開業するのですか?」「ベルリン国立歌劇場の工事はいつ終わるのですか?」

ここ数年、ベルリンを訪れる人々からもっとも頻繁に聞かれる質問が、この2つかもしれない。そのたびに私は「さあ、どうなんでしょうね」と言葉を濁す。正直、それ以外に答えようがないからだ。もっとも、空港に関しては「このまま、中心部から近くて便利なテーゲル空港でも良いですよね」という展開になることがあるが、歌劇場に関しては今の代替公演地のシラー劇場のままで良いと考える音楽ファンはごくわずかだろう。

2010年秋、当初は3年間の予定で始まった大規模な改修工事。2015年現在も終わりが見えていない国立歌劇場の建物は今どういう状況なのか。昨年から定期的に開催されている「工事現場ツアー」に参加してみることにした。

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3月上旬の日曜日、ウンター・デン・リンデンの劇場の前で待っていると、指定時間にガイドの男性が現れ、参加者一行を劇場の反対側にあるプレハブ小屋に連れて行った。ここでヘルメットと長靴を借りて、いざ出発。

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最初に見学したのは、新しく建設中のリハーサルセンター。オーケストラ、合唱、バレエのそれぞれのリハーサル室のほか、劇場本体の舞台と同じスケールの総合練習用の舞台がここに作られる。このリハーサルセンターは、劇場より一足先にオープンする予定だ。

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足の踏み場もないほどの工事現場

いったん外に出て、足の踏み場もないほどの工事現場を通過して(リハーサルセンターと劇場は地下トンネルで結ばれる)、いよいよ歌劇場の中に入る。無数の配線や柱を越えて客席の真ん中に来た。それが平土間と分かったのは、馬蹄形のカーブに沿った、見覚えのあるロココ風の優美な装飾を持つ屋根が目に入ったからだった。しかし、それ以外に、この劇場に通っていた頃をしのばせるものはほとんど見付けられなかった。東独時代の建物の改装というよりは、ほぼ作り直す形に近いのではないかと思ったほどの混沌ぶりである。

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ベルリン国立歌劇場の平土間の現在の様子

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隣接したアポロザール

不安定な地盤から溢れ出る地下水との闘い、18世紀の要塞部分の出土、工事に携わっていた事務所の倒産など、予想外の出来事が重なったとはいえ、修復費は当初の2億4000万ユーロから3億9000万ユーロへと大幅に膨れ上がり、野党の批判も高まっている。つい最近、今度は現場からアスベストが見付かったというニュースが飛び込んできた。

歌劇場で働く知人がこんなことを話していた。「定年が近い東独出身の団員は『このまま東(の本拠地)に戻ることはないのかな』と悲しがっていますね。一方、この5年の間に、元の劇場を知らない若い団員も入って来ました」
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桟敷席の最上階に行き、天井を見上げた。この改装では天井を5メートルかさ上げすることで、音響効果が改善される予定だ。がらんとした工事現場で、ここに響き渡る音を想像したが、「芸術は長く人生は短し」。現時点で完成予定とされている2017年を、大幅に越えないことを願う。
ドイツニュースダイジェスト 4月3日)


Information
ベルリン国立歌劇場 
Staatsoper Berlin

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1742年、フリードリヒ大王の命により、王立の宮廷歌劇場としてオープンしたドイツでも屈指のオペラ劇場。1992年からダニエル・バレンボイムが終身音楽監督を務めている。2010年秋からの大規模な改修工事に伴い、現在はシャルロッテンブルク区のシラー劇場で公演が行われている。U2のErnst-Reuter-Platz駅から徒歩5分。

チケットオフィス:月~日12:00~19:00(当日券は公演の1時間前より)
住所:Bismarckstr. 110, 10625 Berlin
電話番号:030-20354555
URL:www.staatsoper-berlin.de


国立歌劇場・工事現場ツアー 
Baustellenführung

2014年5月から開催されているベルリン国立歌劇場の工事現場の見学ツアー。人気は高く、1回のツアーの参加人数は20人と限られているため、歌劇場のホームページかチケットオフィスでの予約は必須。参加費は一般15ユーロ(割引10ユーロ。ただし14歳以下は参加不可)。所要時間は約2時間。

開催:毎週日曜と祝日の10:00~18:00にかけて計4回ほど
住所:Unter den Linden, 10117 Berlin
電話番号:030-20354555
URL:www.staatsoper-berlin.de

by berlinHbf | 2015-04-04 10:42 | ベルリン音楽日記 | Comments(1)

早稲田大学交響楽団のベルリン公演2015

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ベルリン・フィルハーモニーに登場した早稲田大学交響楽団
© Waseda Symphony Orchestra

3月8日、
早稲田大学交響楽団がベルリン・フィルハーモニーに客演し、センセーショナルともいえる成功を収めました。

同楽団は、音楽を専門としない早稲田大学の学生のみで構成されているにもかかわらず、1978年にベルリンで行われた青少年オーケストラ・コンクールで優勝して以来、国際的な経験を積み重ねてきました。今回のベルリン公演は、ドイツ、オーストリア、フランスの13都市を巡る第14回海外公演「ヨーロッパツアー2015」の一環として行われたものです。

公演の冒頭では、先頃亡くなったワイツゼッカー元大統領のために、ダヴィッド作曲のトロンボーンと管弦楽のための小協奏曲から「葬送行進曲」が急きょ追悼演奏されました。ワイツゼッカー氏は2005年に早稲田大学の名誉博士号を授与されており、過去3回の同楽団のベルリン公演の客席にもその姿がありました。「我々に多大な支援をしてくださったカラヤン氏は『音楽は政治的な対立を超え、国際的な相互理解を実現するための最善の手段』と語りましたが、ワイツゼッカー氏もまた、平和や戦争というものに対して明確なメッセージを出した方。世界に暴力がはびこる今こそ、その遺志を受け継ぎたいと思いました」と語るのは、同楽団の八巻和彦会長。追悼演奏では、首席トロンボーン奏者の水出和宏さん(商学部4年)が、プロ顔負けの堂々たるソロを披露しました。

続くR.シュトラウスの交響詩「ツァラトゥストゥラはこう語った」では、有名な冒頭部分から、若き音楽家たちが持てる力を全力でぶつけてきます。難易度の高いシュトラウスの作品を、技術的にクリアしているだけにとどまらず、作品に込められた文学性や芳香な雰囲気までもが、日本の学生オーケストラの演奏から聴こえてきたのは驚きでした。

後半の、石井眞木作曲の日本太鼓とオーケストラのための「モノ・プリズム」は、著名な和太鼓奏者である林英哲&英哲風雲の会との共演。雫石が滴り落ちるような和太鼓のピアニシモからホールを揺るがす大音量まで、和と洋の楽器による協奏はまさに圧巻で、心の底から揺り動かされたと言わんばかりに、ベルリンの聴衆は総立ちで喝采を送ったのでした。

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左から楽団員の水出さん、藤井さん、福嶋さん

演奏会後のレセプションで、何人かの楽団員に話を聞きました。「このツアー中で今日が一番まとまって演奏できたと思います。お客さんの反応には感動しました」(コンサートミストレスの藤井琳子さん。政経学部3年)

「我々素人がベルリンやウィーンで演奏会をできるのは、全員が一丸となっているから。1人では何もできませんが、上級生からの財産をしっかり受け継ぎ、100人が同じ方向に向かって取り組めば、きっと何かがお客さんに伝わる。それがオーケストラの神髄だと思っています」(ツアーマネージャーの福嶋雅和さん。教育学部4年)

この公演は、ベルリン・フィルのデジタル・コンサートホールを通してインターネットで生中継されました。ほぼ3年毎に行なわれてきた同楽団のツアー。次の来訪が楽しみです。

So, 08. Mär. 2015 11 Uhr
WASEDA SYMPHONY ORCHESTRA TOKYO
MASAHIKO TANAKA Dirigent

Auf Einladung der Berliner Philharmoniker

Richard Strauss
Also sprach Zarathustra op. 30
Richard Strauss
Don Juan op. 20
Richard Strauss
Salomes Tanz aus der Oper Salome op. 54
Maki Ishii
Mono-Prism für japanische Trommeln und Orchester op. 29

by berlinHbf | 2015-03-28 21:28 | ベルリン音楽日記 | Comments(2)

ベルリン・フィルのジルベスターコンサート

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サイモン・ラトル指揮ベルリン・フィルと共演したメナヘム・プレスラーさん
© Holger Kettner

毎年大晦日恒例のベルリン・フィルのジルベスターコンサートは、ウィーン・フィルのニューイヤーコンサートと並んで、クラシック音楽ファンが一度は生で聴いてみたいと憧れる公演です。チケットが取りにくいことでも知られるこのコンサートを、昨年末、幸運にも聴く機会に恵まれました。

公演は12月29日、30日、31日の3回にわたって行われ、すべて同一プログラム。中でも世界中から注目を浴びる大晦日の公演は値段もワンランク上がり、チケットが殊のほか取りにくいことで知られています。

さて、当日17:30の開演に合わせてフィルハーモニーの大ホールに入ると、舞台は普段と違うブルーの照明に彩られていました。周りの席を見渡すと、スーツや華麗なドレスに身を包んだ紳士淑女の姿が目立ちます。ベルリンでは、クラシックの公演においても普段はラフな姿の若者をよく見掛けますが、この日は趣が異なり、独特の祝祭感に包まれていました。

女性司会者によるテレビ中継用の挨拶の後、指揮者のサイモン・ラトルが登場。フランス人作曲家のラモーが1735年に作曲した《優雅なインドの国々》組曲でコンサートの幕を開けました。打楽器による小気味良いリズムに導かれ、フルートやピッコロがエキゾチックなメロディーを奏でます。

舞台が温まってきたところで、この夜の特別ゲストがゆっくりと舞台に上がりました。ピアニストのメナヘム・プレスラー(91)です。長年、ピアノ三重奏団「ボザール・トリオ」のメンバーとして活躍した彼が、ベルリン・フィルにソロデビューしたのは実に90歳になってからのこと。そのときの演奏に感銘を受けたラトルが直々に今回の共演を打診したのだと言います。曲はモーツァルトのピアノ協奏曲第23番。天から降り注ぐようなヴァイオリンの優美な旋律に乗って音楽が始まり、その絨毯の上をピアノのソロが舞い始めます。最初はタッチがやや弱々しく感じられたものの、そのニュアンスの無尽蔵の豊かさと、天国と現実世界が同居したような深淵な表現に惹き込まれました。第2楽章では木管楽器とのやり取りから味の濃い情感が生まれ、フィナーレではゆっくりめのテンポのソロにラトルが愛情を込めて寄り添います。音楽家も聴衆もこれほど息を凝らして演奏に聴き入るコンサートに、私は近年出会ったことがありません。まさに一期一会と言える瞬間が生まれ、聴衆は総立ちでプレスラーを称えました。

関連記事:

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モーツァルトの演奏後のカーテンコールから © Holger Kettner

後半はドヴォルザークのスラヴ舞曲から2曲、そしてハンガリー人作曲家コダーイの《ハーリ・ヤーノシュ》組曲。いずれも激しいリズムと東欧の民俗的なメロディーに支配された作品で、ラトルとオーケストラがそれらを自由自在にドライブすると、フィルハーモニーの熱気は最高潮に高まりました。

大晦日の公演では、終演後ロビーにてシャンパンやソフトドリンクが無料で振る舞われます。偶然そこで出会った知人と素晴らしい音楽を語らい、反芻しました。人生でおそらくそう何度も経験することがないであろう、印象深い2014年の大晦日でした。

by berlinHbf | 2015-02-07 01:32 | ベルリン音楽日記 | Comments(1)

「家庭画報」2015年1月号 特集「ベートーヴェンの軌跡を巡る」

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最近発売になった「家庭画報」2015年1月号が、「ベートーヴェンの軌跡を巡る」と題して、ベートーヴェンの特集を組んでいます。彼の生誕地であるドイツのボンと作曲家としての飛躍の場となるウィーンの2都市で構成されており、ボン編の取材コーディネートをさせていただきました(ナビゲーター役はピアニストの仲道郁代さん。音楽評論家の伊熊よし子さんが記事を書かれています)。

ボンは、ベルリンを除くと私がドイツで唯一長期間滞在したことがある街。学生時代、ボン大学のサマーコースに参加したのが、ドイツに「住んだ」最初の機会でした。今回ベートーヴェンという切り口で、ボンのことを調べ、取材に同行することができたのは幸せでした。家庭画報ならではの大判の写真を眺めていると、ベートーヴェン博物館でラーデンブルガー館長と学芸員のケンプケンさん直々に案内していただいたことや、仲道さんが1824年作のグラーフ製のピアノを弾かれたときのやわらかい音色が、鮮やかな記憶としてよみがえってきます。また9月に、ベートーヴェン音楽祭の取材でアンドリス・ネルソンス指揮の「第9」やピアニストのレイフ・オヴェ・アンスネスが弾く協奏曲を聴き、さらに彼らに直接お話を伺えたことは、私にとって宝物のような経験になりました。書店などで見かけたら、ぜひお手元に取っていただけたらと思います(新春特別付録も付いています)。

それにしても、お正月の記事を眺めていると、日本の年末年始がちょっと恋しくなりますね^^;)。

以下は「家庭画報」のHPより
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【最新号】2015年1月号歓喜の調べで新年を寿ぐ ベートーヴェンの軌跡を巡る

聴く者の心に、歓喜と、情熱と、希望をもたらしてくれるベートーヴェンの音楽。新年を迎えるこの時期にふさわしい名曲が生まれたゆかりの音楽都市ボンとウィーンを訪ね、ベートーヴェンの魅力に迫ります。

by berlinHbf | 2014-12-04 22:03 | ベルリン音楽日記 | Comments(0)

Fête de la Musique体験記

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筆者が出演したフルート・アンサンブル。入場無料、ギャラなしがこの音楽祭の基本ルール ©Gerrit Wegener

「フルート・カルテットを組んで、
Fête de la Musiqueに出てみない?」。春のある日、フランス人とドイツ人の両親を持つ友人がふと言いました。彼女は、ベルリンのアマチュア・オーケストラで何度も一緒に演奏したことがある音楽仲間。私はこの「フェット・ドゥ・ラ・ミュージック」のことを何も知らぬまま、ほかのメンバーと定期的に集まってフルート四重奏の練習をすることになりました。

「音楽の祭典」を意味するこの音楽祭は、1982年にフランス文化省の提唱によって産声を上げました。「音楽はすべての人のもの」という基本精神に則り、プロ、アマ、老若男女問わず誰でも無料で参加できるのが特徴で、夜が1年で最も短い夏至の6月21日に毎年開催されます。人気の高まりとともに海外にも広まり、今やドイツだけでも45都市で開催されているそうです。

さて、迎えた6月21日の遅い午後、私たちは自転車に乗って地下鉄のシェーネベルク市庁舎駅の前に集まりました。この日の16:00から22:00まで、ベルリン市内の公共の場(街路、広場、公園など)であれば、基本的にどこでも事前申請なしに演奏して良いことになっています。

風がやや強かったので、譜面を洗濯バサミで留めて演奏開始! 正直なところ、「人通りがそれほど多くない街路で演奏して、聴いてくれる人がいるのだろうか」と若干心配していたのですが、自転車に乗った人やベビーカーを押した人たちが自然と足を止めて耳を傾けてくれました。私たちが演奏したのは、スメタナの「モルダウ」やメンデルスゾーンの「夏の夜の夢」(まさに夏至の夜がテーマの音楽!)のスケルツォなどクラシック作品から、「カリニョーゾ」「カーニバルの朝」といったブラジル音楽まで。最後はスピード感のある「熊蜂の飛行」を吹き終えると、お客さんが大きな拍手を送ってくれました。

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地下鉄のシェーネベルク市庁舎駅前にて ©Gerrit Wegener

続いて自転車に乗ってアイゼナハ通りへ。使徒パウルス教会の前の広場が次の「舞台」です。近くの公園にいた親子連れなどが足を止めてくれ、良い雰囲気になってきたのですが、突然強い雨が降り出しました。教会の方の厚意で中にしばらく避難させていただき、その後、肌寒い中なんとか最後まで吹き切りましたが、私たちの舞台はここで終了。近くのレストランで祝杯を挙げました。

この日はワールドカップのドイツ対ガーナ戦やCSD(同性愛者のパレード)もありましたが、ベルリンの多くの街角で無料コンサートが行われ、人気バンドの「エレメント・オブ・クライム」が登場したクロイツベルクのオラーニエン広場には、3000人以上ものファンが集まったそうです。私自身、コンサートホールや教会で演奏するのとはひと味違う、音楽の喜びを味わった1日となりました。
www.fetedelamusique.de
by berlinHbf | 2014-07-21 00:13 | ベルリン音楽日記 | Comments(1)

樫本大進さんインタビュー(ドイツニュースダイジェスト掲載)

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5月に実現したヴァイオリニストの樫本大進さんのインタビュー記事が、6月第3週号の
ドイツニュースダイジェストに掲載されました。オンラインでも読めるようになったので(こちらより)、ブログでもご紹介させていただきたいと思います。

今回のインタビューは、1月に亡くなったクラウディオ・アバド追悼演奏会のリハーサル初日の直前に行われました。前半のプログラムは指揮者なしだったゆえに、樫本さん自身「僕らにとっても(リハーサルが)どうなるかわからない」とおっしゃっていて、独特の緊張感の中でインタビューは始まりました。時間は限られていましたが、樫本さんとドイツとの関わりにテーマを絞ったためか、いいテンポで会話が進んだのは幸いでした。

実力・知名度共に抜群の樫本さんだけに、今回の記事はいつになく反響がありました。樫本さんの奥様までもが、「こういう内容のインタビューを、特にドイツに住む方々に読んでいただけるのは嬉しい」とおっしゃってくださったのは、何より嬉しかったです。実際、日本の音楽ファンだけでなく、異国の地で生活・勉強・仕事をしている方などにも、何かしらの力を感じ取っていただける内容になったのではないかと思います。

5月のインタビューの前後に、樫本さんがソロで出演する室内楽の公演を2回聴く機会がありました。中でも、ユダヤ博物館の室内楽フェスティバルで聴いた、シマノフスキの「神話~ヴァイオリンとピアノのための3つの詩」と、フィルハーモニーのリサイタルで演奏されたショスタコーヴィチのヴァイオリンソナタは、心底圧倒される演奏でした。一昨日、ジュネーブで山田和樹さん指揮スイス・ロマンド管とチャイコフスキーのヴァイオリン協奏曲を共演し、いよいよこれから日本ツアーが始まりますね。聴きに行けないのが残念ですが、きっと素晴らしい公演になるだろうと思います。樫本さんがこれから音楽家としてどのような進化を遂げて行くのか、ますます楽しみです。


by berlinHbf | 2014-07-01 14:17 | ベルリン音楽日記 | Comments(1)

雨田光弘「音楽の絵画展」@ベルリン日独センターのご案内

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© AMADA Mitsuhiro, Foto: IGARASHI Miya

ベルリン日独センターより、展覧会のオープニングのご案内をいただきました。雨田光弘さんの「音楽の絵画展」。どこかで見たことのある絵だなと思ったら、雨田さんは長年日本フィルのグッズやカレンダーに絵を描かれているそうなので、きっとそれを通してだと思います。6月10日のオープニングには、ベルリン・フィルのヴェンツェル・フックスさん(クラリネット)やクヌート・ウェーバーさん(チェロ)らによるミニコンサートもあるそうなので、ぜひ足をお運びください。


オープニング:2014年6月10日(火)、19時30分開会
会場: ベルリン日独センター (JDZB, Saargemünder Str. 2, 14195 Berlin-Dahlem)
オープニングコンサート: ヴェンツェル・フックス/クラリネット (ベルリン・フィルハーモニー管弦楽団団員) クヌート・ウェーバー/チェロ (同上)、ホルガー・グロショップ/ピアノ

1935年生まれの画家兼音楽家、雨田光弘。音楽をテーマにした彼の作品は、日本のみならず海外の音楽・美術ファンの間で非常に人気がありますが、本展はその雨田光弘のドイツ初個展です。
雨田は、著名な画家・彫刻家である雨田光平を父に持ち、その影響で幼いころから絵画に親しんでいました。また、雨田はプロのチェリストとして日本フィルハーモニー交響楽団のソロチェリストを長年に渡り勤め、その後フリーの演奏家としても活躍しています。
雨田の作品では、音楽家の多くが猫や他の動物になぞらえられて描かれています。ユーモアにあふれ、『鳥獣人物戯画』を連想させるような簡潔な運筆スタイルですが、音楽を奏でる動物たちは個性にあふれ、見る者に本物の音楽家たちとの類似点を見出させることでしょう。
大人の方のみならずお子様にも楽しんでいただける展覧会です。

観覧時間:月曜日~木曜日10時~17時、金曜日10時~15時30分、入場料無料
展覧会会期: 2014年6月11日~2014年8月15日

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Ausstellung: Musikbilder von Amada Mitsuhiro
Eröffnung am 10. Juni 2014 um 19:30 Uhr
im Japanisch-Deutschen Zentrum Berlin (JDZB, Saargemünder Str. 2, 14195 Berlin-Dahlem)
Musikalische Umrahmung: Wenzel Fuchs/Klarinette und Knut Weber/Violoncello (Mitglieder der Berliner Philharmoniker) und Holger Groschopp/Klavier

Der 1935 in Tôkyô geborene Künstler Amada Mitsuhiro ist in Europa noch weitgehend unbekannt. Das JDZB präsentiert seine Werke zum ersten Mal in Deutschland. In Japan werden sie unter Musik- und Kunstliebhabern gleichermaßen geschätzt, denn das zentrale Thema seiner Kunst ist die Musik.
Die Malkunst erlernte er bei seinem Vater Amada Kôhei, einen sehr bekannten Maler und Bildhauer. Amada Mitsuhiro ist aber auch Musiker. Er spielte viele Jahre als Solocellist im Japan Philharmonic Orchestra und später als freiberuflicher Musiker.
In seinen Bildern werden die Musiker überwiegend als Katzen dargestellt. Humorvoll bringt er sie mit wenigen Pinselstrichen im Stil des Chôjû jinbutsu giga (Karikaturen von Menschen in Tiergestalt) zu Papier. Seine charaktervollen, musizierenden Katzen lassen den Betrachter durchaus auf Ähnlichkeiten mit lebenden Musikern schließen.
Eine Ausstellung nicht nur für Erwachsene!

Öffnungszeiten: Mo–Do 10–17 Uhr; Fr 10–15:30 Uhr, Eintritt frei!
Ausstellungsdauer: 11. Juni bis 15. August 2014

by berlinHbf | 2014-06-09 16:18 | ベルリン音楽日記 | Comments(1)

レオニダス・カヴァコスが弾くブラームス

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© Daniel Regan

しばらく音楽会から足が遠ざかっていた。先週は体調を崩したり、気持ちにやや余裕がなかったせいもある。机の上で作業しながら、好きな音楽をかけたり、よくかけているKulturradioから流れてくる音楽に耳を傾けるのももちろん楽しい。が、この数週間に聴いた音楽の記憶が吹っ飛んでしまうような2つの実演に接してしまった。記憶の新しいところから10日のベルリン・ドイツ交響楽団の演奏会から書いておきたい。

この演奏会、実はある知人が用事で行けなくなり、私にお声をかけてくださったのだった。ブロックAの前から4列目という、特にヴァイオリンのカヴァコスを聴くには最高の席だった。黒一色のスーツを着たカヴァコスと若手指揮者のダーヴィド・アフカムが登場。カヴァコスは長髪に眼鏡という出で立ちが特徴的だ。ブラームスのヴァイオリン協奏曲は、あの雄大な序章が鳴り始めたときから、心の中が充実感で満たされる思いがする。カヴァコスはオーケストラの方を向いており、表情は伺えないが、彼の内なる緊張感がじわじわ高まり、聴き手にまである種の気が伝わってくるのは、今回の特等席ならでは^^。そこへ、ヴァイオリンのソロが勢いよく切り裂く。

協奏曲の演奏で特に肝心なのは、当然ながら最初にソロが入ってくる部分だろう。ここでオケとソリストの両者がうまくかみ合い、互いを高め合う予感のようなものが生まれれば、聴き手にある一定以上の感動は約束される。その点、この夜のカヴァコスは最初の数分の技巧的なソロで、聴き手を虜にしてしまったといえるかもしれない。少なくとも私は彼の奏でる音楽にずっと釘付けの状態だった。体温のある美しい音色、左手の技術の確かさはもちろんなのだが、彼の場合、よほど弾く姿勢がいいのか(もちろんそればかりではないだろうが)、どんな箇所でも体の芯がぶれず、音楽が求心力を失うことがない。カヴァコスという人は、物事をある形の中に冷静に収めようとする面と、感情を自然な形で表に出そうとするロマンチックな側面とが、高い次元でとてもバランスよく融合しているように感じられるのだ。

長さをまったく感じさせなかった1楽章。2楽章のオーボエのメロディーを受け継いで音楽がゆっくり膨れ上がっていくところも感動的だった。フィナーレではジプシーのリズムが弾ける。冒頭のリズムが繰り返される過程で、カヴァコスはさりげなく遊びの装飾も加え、一段と血沸き肉踊る音楽となってゆく。高校生のときから好きな曲だが、ソリストとオーケストラががっぷりに組んでの、このようなゾクゾクするような時間を体験したことは今までなかった。

私がカヴァコスを初めて聴いたのは、2003年5月の彼のベルリン・フィルとのデビュー公演だった。オール・シベリウスのプログラムで、ヴァイオリン協奏曲のほか、ベルグルントが交響曲の第6と第7番を振ったのだ。録音が残っていたら、改めてじっくり聴き直したい想い出の演奏会である。私は舞台左サイドの階段の踊り場で立って聴いていたのだが、すぐ隣の貴賓席を見たら、往年のベルリン・フィルの名コンサートマスターだったシュヴァルベさんがいらした。カヴァコスの演奏を身を乗り出すように聴き入り、演奏が終わると、歓声を上げて拍手を送っていたのをよく覚えている。私自身、初めてカヴァコスを聴いたこのとき、はっと揺り動かされる瞬間が何度かあった。その後、彼はベルリン・フィルにソリストとして定期的に呼ばれるようになり、数年前はアーティスト・イン・レジデンスも務めた。日本ではまだそれほどの知名度はないようだが、現代最高のヴァイオリニストの一人なのは間違いない。古典、現代問わず、今後も聴き続けていきたい音楽家だ。

長身でなかなかハンサムな若手指揮者アフカムは、ショスタコーヴィチも好演した。もっとも、この夜私にとってはブラームスの印象が強すぎて、他がややかすんでしまった感は否めない。

DAVID AFKHAM
Leonidas Kavakos Violine
Deutsches Symphonie-Orchester Berlin


Anton Webern
Sechs Stücke für Orchester op. 6 (1928) 
Johannes Brahms
Violinkonzert D-Dur 
Dmitri Schostakowitsch
Symphonie Nr. 15 A-Dur

by berlinHbf | 2014-04-12 23:57 | ベルリン音楽日記 | Comments(3)

ピアニスト メナヘム・プレスラー

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ハンス・アイスラー音大のマスタークラスで指導したメナヘム・プレスラー氏

メナヘム・プレスラーというピアニストをご存じでしょうか? クラシック音楽に興味がある人でも、誰もが知る名前ではないかもしれません。それは、プレスラー氏がソリストとしてよりも、「ボザール・トリオ」という米国のピアノ三重奏団で長年活躍してきたからなのですが、驚くべきことに90歳の今もなお、精力的に演奏活動を続けています。1月中旬、この超ベテランピアニストがベルリン・フィルと“初共演“すると聞き、期待を胸に出掛けてきました。

万雷の拍手の中、小柄なプレスラー氏が舞台に現れました。曲目はモーツァルトのピアノ協奏曲第17番。セミヨン・ビシュコフ指揮の柔らかな伴奏に乗って、ピアノのソロが始まります。極めて軽く透明なタッチに耳を奪われました。何より驚いたのは、彼独自の世界観を感じさせながらも、オーケストラと完全に調和していたこと。木管楽器が活躍するこの作品で、愛らしいメロディーの掛け合いが幾度も交わされ、協奏曲というよりは室内楽を聴いているかのような親密な演奏でした。

アンコールで演奏されたのが、ショパンの遺作となった夜想曲第20番。忍び寄る死と生が同居したような、不思議な軽みと温かみに包まれた演奏で、聴衆は最後、総立ちでピアニストを讃えました。

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マスタークラスの様子

その翌日、プレスラー氏がベルリンのハンス・アイスラー音楽大学の若手ピアノ三重奏団に対してマスタークラスを行うというので、見学に行きました。前夜、天上のような音楽を奏でていた人とは思えないほど厳しく、また細かい指導に驚きます。「タッチが乱暴過ぎる。手を無重力のまま下ろすような感じで」「楽譜をよく見て! ピアニッシモと書いてあるでしょう」。英語だけでなく、時折流暢なドイツ語も交じります。彼は1923年にマグデブルクでユダヤ人として生まれ、1938年の「水晶の夜」事件の後、ナチスによる迫害を逃れて米国に亡命した経歴を持ちます。ドイツに帰化したのは2012年と言いますから、祖国への果てしない道のりに思いが至ります。

レッスンの後、プレスラー氏と少し言葉を交わすことができました。別れ際、にっこり笑みを浮かべて一言、「春に日本に行くよ。サヤカと共演するんだ」。この4月、ヴァイオリニストの庄司紗矢香さんと日本でデュオ・リサイタルを行うそうです。

何かを達観したような美しいピアノの音色とその背景にある激動の歩み。そして、今も持ち続けている好奇心と向上心。プレスラー氏の歩みはこの先も続きます。
ドイツニュースダイジェスト 2月21日)
by berlinHbf | 2014-02-22 21:50 | ベルリン音楽日記 | Comments(2)

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