ベルリン-東と西が出会う場所。ドイツにありながらドイツではない町。歴史の影に彩られた栄光と悲運の世界都市。そんなベルリンの奥深い魅力をリアルタイムでお届けするブログです。Since 1. August 2005


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中村真人 (Masato)
神奈川県横須賀市生まれ。早稲田大学第一文学部を卒業後、2000年よりベルリン在住。ベルリンの映像制作会社勤務を経て、現在はフリーのライター、ジャーナリスト。


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現在のトップ画像は、ベルリン在住のイラストレーター、高田美穂子さんによるオリジナル作品です(詳しくはこちらより)

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ある放火事件より-ベルリンと外国人-

1週間前、私がBBCの街頭インタビューを受けたことを書いたのだが、覚えておられるだろうか(8月10日参照)。あの時Integrationについて聞かれた理由が、後になって新聞を読んだりしていくうちにわかってきたので、そのことについて書いてみたい。これはベルリンが抱える大きな問題と関わっていると思うからである。

先週の月曜から火曜にかけての夜、ベルリンのMoabitという地区で、数十年来といわれる規模の放火事件があった。Moabit地区は低所得の外国人が多く住むことで知られる。事件の起きたアパートの住人の多くも外国人だった。

月曜日の深夜、何者かがアパートの入り口の階段付近にある乳母車に火を付けたらしい。たちまち煙と有害ガスが階段をつたって上の方に昇っていった。このような場合、玄関のドアさえしっかり閉めておけさえすれば、まず一番安全なのは自分の部屋の中である。だから、消防士たちは住人に向かってメガホンで階段の方に行くなと指示をしたらしい。ところが、消防署長の話によると、住人の多くはドイツ語がよくわからなくて、その指示が理解できなかった。パニック状態になって、階段の方に逃げようとした住人は、そこで煙に巻き込まれてしまったというのである。結果的に9人の死者を出す大惨事になってしまった。犠牲になったのは、ポーランドとコソボからの2つの家族で、子供も多く混じっていた。

消防署長の上の発言から、「死者の数が増えたのは、住人のドイツ語力の不足のためだったのか、そうでないのか」ということで議論になったのだが、その中で、あるCDU(キリスト教民主同盟)の政治家が次のような発言をして大きな波紋を呼んだ。

「今回のこの事故は、ドイツに住む外国人にとって、ドイツ語の知識がいかに重要なものであるかを悲劇的に証明した。ドイツ語を学ぶつもりのない人間は、この国の物質的な支援を受ける資格はない。」
「ドイツに住むつもりであれば、まずドイツ語を学べ」、これはCDUの政治家にたまに見られる発言ではあるものの、今回は時期が時期だっただけに、多くの非難を浴びることになった。結果的にこの政治家は、「被害にあった家族や親戚への配慮がなかった」と謝罪したのであるが、「外国人のあなたがドイツに来て生活するということはどういうことですか。」と私がBBCにインタビューされたのも、そういう背景があったゆえのことなのだった。

ドイツにいる日本人の多くは、会社の駐在などを除くと、音楽とか歴史、法律など、つまりドイツの何かについて学びに来ている人が圧倒的に多い。だから、ドイツに来たらまずドイツ語を勉強する、それが当たり前だと思える。あまり勉強しない人でも、心のどこかでドイツ語をもっと勉強しなくちゃと思っている。

だが、それはベルリンに住む44万人全ての外国人にとっての共通の事情ではない。ベルリンの外国人の多くは、トルコ人であったり、旧ユーゴからの避難民であったり、イスラム諸国からであったり、あるいはドイツよりも貧しい東ヨーロッパ諸国からの人たちである。彼らは家族ごとベルリンに移住し、ひとつの地区に固まって住んでいることが多い。そのような人たちにとっては、まずは生きることが先決で、別にドイツの文化や言葉を学ぶためにベルリンに来たわけではないだろう。トルコ人など、とことんドイツ語が上手な人がいる一方で、何年も住んでいるのにドイツ語がほとんどできない人もいるらしい。イスラム圏からの人たちは、イスラム教の文化、風習を頑なに守ろうとするから、ドイツ社会に溶け込むという意識は少ない。「外国人のゲットー化」と呼んで、そういう閉鎖的な環境がひょっとしたらテロの温床になっているのではないかと危惧する人たちもいる。

このようなマルチ・カルチャーはベルリンの魅力のひとつだが、さまざまな問題点もあるし、上のCDUの政治家に見られるように、「ドイツ」としての共通の基盤みたいなものが崩れると、嘆かわしく思っている保守派の人たちも少なくないはずだ。ベルリンはただでさえ、失業率が高いという事情もある。

ところで、数日前に放火犯が捕まったのだが、なんと同じアパートに住む12歳の少年とのことで、事件の衝撃性は一層増すことになった。
by berlinHbf | 2005-08-19 15:00 | ベルリンのいま | Comments(8)
Commented by ymzk at 2005-09-04 14:11 x
そんな事件があったのですか.
まあ,事件の重大さもさることながら,その政治家の発言も気になりますね.
つまり,「ドイツ語の分からん奴はドイツに住むな」ってことですよね.

ちょっと発言の時期が悪かったですね.
まあ,でも発言の趣旨は分からなくもないです.

マサトさんの仰るように,
いわゆるGastarbeiterはドイツの文化を学びにきたわけでもドイツ語力アップのために来たわけでもない.
生きるために必死なのです.
経済的な事情でドイツに来た人,政治的な事情でドイツに来た人,さまざまでしょう.
そして彼らの中には,自分の思想・信条ゆえ,移り住んだ先の習慣に溶け込むことができない/溶け込もうとしない人がいるのも事実でしょう.
故郷を同じくする者同士が小コミュニティーを形成している例も
たくさんあることでしょう.

しかし,そこはあくまでドイツなのです.
生きるために必死なればこそ,ドイツ語はおのづと必要になってくるはずです.
そう考えれば,やはりドイツ語を学ぶことは当たり前です.必須です.

(長くなるので,一旦ここで切ります)
Commented by ymzk at 2005-09-04 14:12 x
(続きです)

逆に,極端なことを言ってしまうと,
では,そのアパートが炎に包まれている中で消防隊員はポーランド語か何かで指示を出せばよかったのでしょうか.
それは違うと思います.
そこはあくまでドイツなのです.

日本にも出稼ぎの労働者がたくさんいます.
彼らのほとんどは
流暢とは言えないまでも日本語を話します.
完全とは言えないまでも日本語を理解します.
生きるために必死であるから,日本語が必要なのです.

まあ,難しい問題ですけどね.
外国人に対して冷たすぎるのも感心できませんが,さりとて外国人に対して過度に甘いのも感心できません.
そこはあくまでドイツなのです.

ひとまず,留学であれ海外赴任であれ出稼ぎであれ亡命であれ
言葉の違う国で何かをしようとするならば,
ある程度のご当地言語の運用能力は持ち合わせてしかるべきでしょう.
これは思想,信条,宗教,立場などとはまったく他の次元にあるものです.

やはり「ドイツ語能力は当たり前のことなのだ」と断ぜざるを得ません.
亡くなられた方々には気の毒ですが.
Commented by berlinHbf at 2005-09-06 04:05
熱く語っていただきありがとうございます。ymzkさんがドイツ語教師ということを除いても、非常に説得力がありました。

私はポーランドでもコッソボでもなく、世界で最も裕福な国の一つ、日本からやって来た人間ですが、ここにいる限り、一人の外国人であり、移民(Immigrant)であることからは逃れられないんですよね。たまに外人局とかに行くと、このことを強く実感します。

イスラムのスカーフ問題でもそうでしたが、「教室の中ではスカーフを取らなければならない」といっても、別にそのことがイスラム教を否定するということにはならないですよね。だから、文化的背景云々を抜きにして、まず移民の人たちがドイツ語をしっかり学ぶ環境作りとモチベーションを高めるようもっていくことは大事かなと思います。CDUが政権を握ったら、外国人に対して厳しくなっていくのでしょうか。

しかし、ドイツ語はつくづく難しい。「ドイツ語なんて簡単だよ」なんて言っている外国人にお目にかかったことはいまだかつてありません。
Commented by ymzk at 2005-09-06 17:47 x
オレもドイツ語教師という立場でありドイツ語学を専門とする研究者という立場でもあるわけですが,にもかかわらず,いや,それゆえ,ドイツ語の難しさは日々痛感しております.
ホント難しいです.奥が深いです.
立場上,教えている子供たちには「簡単だよ」なんぞと言ってはおりますが.「簡単だよ」と言っておかないと,みんな逃げちゃいますからね.そうでなくても大学でドイツ語を習った(習わされた?)親御さんから「ドイツ語は難しすぎる」なんぞと脅されている子が多いですし.
Commented by berlinHbf at 2005-09-07 01:32
最近、「ドイツニュースダイジェスト」の記事で読んだのですが、かのマーク・トウェインが1880年にヨーロッパを放浪した際の旅行記に、彼が若い頃ドイツ語を学んだときの苦労話が記載されているそうですね。

曰く「過度の複合語は聞いていて息苦しい」「動詞が一番後ろに来たりして、最後まで聞かないと何が言いたいのかわからない」「(ドイツ語は)虫歯をペンチではさんだまま、回りくどい説明を始め、恐怖の瞬間を今か今かと待つ患者を、息もできないほどに緊張させる歯医者のようだ」とか言いたい放題。

それにしても、ドイツ語の文法ってもうちょっと簡素化できないんですかね。最近の「新正書法」もいまいちよくわからない。しかも、州によっては導入されていないところもあるし。ぶつぶつ・・・
Commented by ymzk at 2005-09-07 03:06 x
あ,それ読んだことあります.
「ひとたびドイツ人が喋り始めたら,動詞は大西洋の向こう側にならないと出てこない」とか書いてあったような気がする.
Mark Twain "The aweful german language" ですね.
ドイツ語訳されたものが部屋のどこかに埋もれてるはず.
近いうちに探してみます,
Commented by berlinHbf at 2005-09-07 07:45
この本のタイトルは「ヨーロッパ放浪記」で、ドイツ語訳は"Bummel durch Europa"。ドイツ語版はInsel出版社から出ていて、私もちょっと興味あります。
http://www.amazon.de/exec/obidos/ASIN/3458335951/qid=1126046000/sr=1-1/ref=sr_1_11_1/302-7963323-4269610
Commented by ymzk at 2005-09-07 17:27 x
ほほう,そんなのもあるんですか.
でも,オレの記憶にあった「恐ろしいドイツ語」もなかなか面白いですよ.
ドイツ語タイトルは"Die schreckliche deutsche Sprache"です.

ドイツ語の難しさといえば,こんなギャグを聞いたことがあります:

   その昔,英国の女王陛下がドイツの大統領閣下主催の
   晩餐会で,とある政治家とお話になったときのこと.
   政治家はベラベラと喋っているのに陛下お抱えの通訳は
   その政治家の話に聞き入って何やらメモを取るばかりで
   なかなか英語に訳してくれません.
   かれこれ3分ほど経ったでしょうか.
   陛下はついにシビレを切らされ,黙ったままの通訳に
   ご下問されました.
   「これ,一体この者は何と申しておるのじゃ.
   メモばかり取っておらず,早々に英語に訳さぬか.」
   通訳の答えて曰く,
   「陛下,今しばらくご辛抱を.まだ動詞が出てきておりませぬ.
   どうかご辛抱を.」

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