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ベルリン-東と西が出会う場所。ドイツにありながらドイツではない町。歴史の影に彩られた栄光と悲運の世界都市。そんなベルリンの奥深い魅力をリアルタイムでお届けするブログです。Since 1. August 2005


by berlinHbf

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中村真人 (Masato)
神奈川県横須賀市生まれ。早稲田大学第一文学部を卒業後、2000年よりベルリン在住。ベルリンの映像制作会社勤務を経て、現在はフリーのライター、ジャーナリスト。


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現在のトップ画像は、ベルリン在住のイラストレーター、高田美穂子さんによるオリジナル作品です(詳しくはこちらより)

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新ナショナルギャラリーの「メランコリー」展

新ナショナルギャラリーの「メランコリー」展_e0038811_593072.jpg
メランコリー漂うベルリンの冬の空。Neue Nationalgalerieにて(2月24日)

ノイエ・ナツィオナールギャラリー(新ナショナルギャラリー)で開催中の「メランコリー 芸術における天才と狂気」という展覧会を先日観て来ました。これは、「メランコリー」という概念が、ヨーロッパにおいていかに芸術の源泉になったかを、古代ギリシャから現代までの300以上の絵画、彫刻、写真、ビデオアートなどの作品を観ながら辿ることができるという、圧巻ともいえる展覧会でした。
内容を少しご紹介してみましょう。

新ナショナルギャラリーの「メランコリー」展_e0038811_137160.jpg
Deodato di Orlandi, Johannes der Täufer (13c)

メランコリーという言葉は、「黒い肝汁(Melas cholé)」意味する古代ギリシャ語が起源です。紀元前400年頃、ヒッポクラテスが始めた体液病理学によると、メランコリックな気質の人というのは、血液に黒い肝汁が余分に流れ込んでいるからだと説明されていました。憂鬱気質の人は立派な病気とされていたのです。その理論によると、人間の性格も「多血質・肝汁質・憂鬱質・粘液質」の4つに分類され、憂鬱質の要素は「土(元素)、秋(季節)、成人(人生の中で)、午後(一日の中で)」でした。

新ナショナルギャラリーの「メランコリー」展_e0038811_6164858.jpg
Geertgen tot Sint Jans, Johannes der Täufer in der Einöde (1480-1485)

そんなわけで、メランコリーであるということはネガティブに見られることが多かったようなのですが、一方でその逆の見方も古代から存在していました。つまり、「メランコリーは天才の創造の源泉である」という考えです。「哲学、政治、詩、芸術において、卓越した業績を残した人間は、どうして揃いも揃ってメランコリックなのだろうか?」という紀元前4世紀のアリストテレスの言葉が紹介されていました。

中世においては、メランコリーは「修道士の病気」として知られ、7つの罪のひとつでさえあったそうです。このコーナーでは絵画だけでなく、中世の医学書や神学書なども展示されていました。こうもりの剥製なども置いてあって、ちょっと恐かったですが^^;)。

新ナショナルギャラリーの「メランコリー」展_e0038811_1393398.jpg
「メランコリー」というタイトルで、おそらく最も有名な芸術作品はこれではないでしょうか。デューラーの「メランコリア1」という銅版画ですが、思いのほか小さい作品でした。モデルの男性はデューラー自身といわれています。これも、「メランコリー=孤高の天才」という系譜に属する作品と見ていいのでしょう。

新ナショナルギャラリーの「メランコリー」展_e0038811_6152210.jpg
さて、こちらも「メランコリア」というタイトルのクラナッハの作品。これはメランコリーと当時盛んだった錬金術とが結び付いた作品だそう。クラナッハ作品に出てくる女性特有の挑発的な目が印象的ですが、この絵にはいろいろなアレゴリーが隠されているようです。

新ナショナルギャラリーの「メランコリー」展_e0038811_6142877.jpg
これは17世紀、ドメニコ・フェッティの「メランコリア」。この時期、メランコリーは死と結び付けられ、無常観(Vergänglichkeit)の色の濃い作品が多く登場します。しばしば画面に登場する、されこうべ、ろうそく、砂時計はいずれもそのシンボルです。

この展覧会では、「メランコリーの響き」というメランコリーと音楽を結び付けたコーナーもありました。憂鬱性をまぎらわすのに、音楽には古くから重要な癒し効果があるとされていたんですね。ちなみに、音楽療法という概念は旧約聖書のサムエル記にすでに出てくるんだそうです。

1628年に血液循環が発見されたことにより、「メランコリックな人間は体液が黒いからだ」という考えはもはや意味をなさなくなりますが、「メランコリーは芸術における創造の源泉」、「天才と狂気は紙一重」という古代からの考えは、18,19世紀の芸術美学に強い影響を及ぼします。今回の展覧会でも、19世紀の作品にとりわけゆったりしたスペースが割かれていたのには頷けました。まずは左右対称に並ぶ、C.D.フリードリヒの大きな画面の2作品に圧倒されます。メランコリーは自然と結び付いていくのです。

新ナショナルギャラリーの「メランコリー」展_e0038811_6174545.jpg
Casper David Friedrich, Adtei im Eichwald (1809-1810)

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Casper David Friedrich, Mondaufgang am Meer (1822)

新ナショナルギャラリーの「メランコリー」展_e0038811_146349.jpg
静謐感漂うアーノルド・ベックリン(Arnold Böcklin)の「死の島」。この時代からは、ゴッホ、ムンク、ピカソをはじめとした名作が目白押し。有名な、ロダンの「考える人」も登場します。

新ナショナルギャラリーの「メランコリー」展_e0038811_4352772.jpg
Vincent van Gogh, L'Arlésienne: Madame Joseph-Michel Ginoux (1888 or 1889)

それにしても、腕を曲げて、手を頭にやるポーズがやはり多いですね。これはヨーロッパ特有なのか?例えば、日本の絵画で、こういうポーズを描いた人物画は、あまり思い浮かばないのですが。

新ナショナルギャラリーの「メランコリー」展_e0038811_1465758.jpg
Frank von Stuck, Luzifer (um 1890)

この時代のメランコリックな絵を観ていると、マーラーの音楽でも聴きたくなってきます。この前書いたR.シュトラウスのオペラ「ばらの騎士」も、私の中ではまさにメランコリーな作品。

実はこの「メランコリー」展、絵画だけでなく、メランコリーをテーマにした映画やコンサートなどの付属プログラムも充実しているのです。例えば映画だと、タルコフスキーの「ノスタルジア」やジャン・コクトーの「オルフェオ」、最近のものだと、「ロスト・イン・トランスレーション」や「花様年華」といった作品が上演されます。このラインナップには、うーん納得という感じです。

新ナショナルギャラリーの「メランコリー」展_e0038811_1473025.jpg
やがて時代は20世紀へ。これはベルリン生まれのアメリカ人画家、ゲオルゲ・グロッス(Georg Grosz)のDer Liebeskranke(恋の病)という作品。このあたりまでくると、どこがメランコリーでどこが狂気なのだかわからなくなってきますが、これが20世紀というものなのでしょうか。

書き疲れてきたので最後は駆け足になってしまいましたが(後ほど少し書き足します)、メランコリーに彩られてきたヨーロッパのアートの歴史をたっぷり眺めることができる、文句なしにおすすめの展覧会です。5月7日までなので、機会のある方はお早めにどうぞ。

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by berlinHbf | 2006-04-18 23:01 | ベルリン文化生活 | Comments(12)
Commented by madonotabi at 2006-04-19 09:31
メランコリー展について詳しいレポートありがとうございます。
私にとって”メランコリー”という要素(あからさまに表現されていなくても)が含まれているかは、絵画、音楽、映画、人物、、全てにおいて自分の心に”引っかかる”何かであるように考えていた重要なテーマであっただけに大変興味深い企画展です。現地にいけなくて残念です。
フリードリヒの作品は絵の中に入っていきたくなります。
Commented by b_kuchen at 2006-04-19 13:26
はじめまして、こんにちは。
様々な「メランコリー」の表現を楽しませていただきました^^
私はミュンヘンに住んでいるのですが、今は里帰り中。
berlinHbf さんと同じ横須賀生まれの横須賀育ちなんです!今も実家は横須賀市内にあります。
berlinHbfさんの記事(ベルリンのペット事情でしたね♪)を「はまかぜ」で拝見して、同じエキサイトのブログをお持ちだったので、嬉しくてこちらにお邪魔しました!
ドイツに住んで2年が経つというのに、未だにベルリン行ってません^^;
こちらで、ベルリンのコト、いろいろ教えてください。
また、ゆっくり遊びに来ます^^
Commented by akberlin at 2006-04-19 18:55
素晴らしい力作レポートでしたね。
私も浅く書いた記事があるのでトラバさせて下さいね。
Commented by lignponto at 2006-04-19 19:30 x
興味のそそられる展覧会ですね。
行けないのが残念です。
Commented by まりりん at 2006-04-20 09:01 x
とても興味深く読ませて頂きました!
マサトさんの記事を読んで、もし展覧会に行けたら、どんなに楽しいだろう!って思いました。。こんなわかり易い解説、(しかも日本語で!)
勉強になりました~!

それにしても、黒い肝汁…とは、昔の人って、発想が豊か?!ですね。笑。
Commented by berlinHbf at 2006-04-20 17:47
>madonotabiさん
メランコリーな作品にこれだけ傑作が多いというのは、これがアートにおいて不可欠な要素ということを示唆しているのかもしれませんね。次回は例の「東京-ベルリン」展がここで開かれます。
>フリードリヒの作品は絵の中に入っていきたくなります。
本当に画面に吸い込まれていきそうでした^^;)フリードリヒの絵は、普段はアルテス・ムゼーウムに常設されているので、今度いらっしゃる際はぜひご覧くださいね。
Commented by berlinHbf at 2006-04-20 17:55
>b_kuchenさん
はじめまして!「はまかぜ」を通して、ここに来てくださったとはとてもうれしいです。横須賀、懐かしいですね。私の実家は久里浜の近くにあります。ミュンヘンは昨年の6月に訪れました。W杯の開幕が近付き、街は沸いていることでしょう。またいつでも書き込んでくださいね。
Commented by berlinHbf at 2006-04-20 18:06
>akberlinさん
こちらからもTBさせていただきますね。「時代順、国別にとらわれない展示の仕方」、本当にその通りでしたね!

>lignpontoさん
また面白そうな展覧会を見つけたらご紹介しますね。
Commented by berlinHbf at 2006-04-20 18:14
>まりりんさん
パンフレットや資料で観たものを振り返りながら、まとめていくのは自分のためにもなっています。わかりやすく説明するのは、なかなか難しいことですが、雰囲気だけでも味わってもらえたらうれしいです。
Commented by hummel_hummel at 2006-04-21 06:58
メランコリー展は、私も先月行きました。えらい人ごみで、あまりメランコリーな雰囲気ではなかったですが(笑)。こちらの説明のお陰で色々と思い出してきました。
C.D.フリードリヒ等、多くの絵はベルリン内での引越し展示でしたが、見せ方や説明の加え方によって、印象も随分違ってきて興味深かったです。「死の島」もそう。旧ナショナルの明かるい室内で見るよりも、暗がりの中の絵は妖しい美しさが引き出されていましたね。
Commented by berlinHbf at 2006-04-22 06:17
>フンメルさん
あの展覧会、もう行かれていたんですね!
>C.D.フリードリヒ等、多くの絵はベルリン内での引越し展示でしたが、
おっしゃる通りですね。でもベルリン持っている絵だけで、あれだけ集まるというのも驚きでした。フンメルさんの話のお陰で、「死の鳥」の別バージョンも見てみたくなりましたよ。
Commented by ヤグチン at 2009-03-09 09:21 x
フェッティの作品は、開催中のルーブル展でご覧になれます。

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